浜矩子教授「今の英国の混乱ぶりは情けない」 ブレグジットの決断そのものは正しいのだが
英国と大陸欧州は体質も目指す方向も違っていた
――かねて英国はEUを離脱すべしと主張されていました。
そもそも英国はEUに入ったことが間違いだった。いずれは離脱するだろうと見ていた。経済・社会の体質が島国の英国と大陸欧州とではまったく違う。欧州統合の理念はドイツとフランスが再び戦争を起こさないための共同体形成という外交・安全保障上のテーマから出発している。その後、だんだん経済統合へと進んでいったが、原点は欧州防衛共同体を志向したものであった。ところが、英国はそうした意識は非常に稀薄だった。
1960年代末から1970年代にかけて、英国経済は非常に低迷した。一方で、統合欧州は欧州経済共同体<EEC>として関税同盟を作った初期の効果が大きく、成長力が高まって市場も拡大していった。そのため、経済的にその流れに乗りたいという実益的発想から、英国も加盟を考えるようになった。
そうした英国の狙いとか体質の違いを、フランスのシャルル・ド・ゴール大統領(当時)はよく見抜いていて、「島国体質の彼らとわれわれの考えは合わない」と拒否し、ド・ゴールが死ぬまで英国は入れてもらえなかった。「アメリカの傀儡であり、トロイの馬である」と語ったことは有名だ。だが、アメリカにそこまでの考えがなく、その点では結果的に取り越し苦労だった。
だが、外交・安全保障に基づく理念先行の大陸と実益・経済優先のイギリスの体質の違いはド・ゴールの指摘のとおりだった。加盟当初からボタンの掛け違いのようなことは目立ち、見返りが少ないことにカネばかり出さされて、と英国が不満に思うことは今に始まったことではない。
統合欧州は理念先行、政治先行、外交・安全保障先行なので、実益はともかく、とにかく最初にルールをしっかり決めよう、形を作ろうとするのがやり方だ。国々がひしめき合って、ひとまたぎで国境を超えられるので、ルールを決めないとカオスになってしまう、という現実もある。イギリスは海賊国で海に出たら何が起こるかわからない、成り行きでその場その場で最も実益の高い選択をする。だから、最初から入らなければ、こんな騒ぎにもならなかった、というのが私の印象だ。
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