浜矩子教授「今の英国の混乱ぶりは情けない」 ブレグジットの決断そのものは正しいのだが

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浜矩子(はま・のりこ) /同志社大学大学院ビジネス研究科教授。 1952年生まれ。一橋大学経済学部卒業。三菱総合研究所ロンドン駐在員事務所長、同研究所主任研究員を経て、2002年より現職。専門はマクロ経済分析、国際経済。著作多数。近著に『浜矩子の歴史に学ぶ経済集中講義』(集英社)『「通貨」の正体 』(集英社新書)『どアホノミクスの断末魔』 (角川新書)など。(撮影:梅谷秀司)

――なぜ、国民投票から2年たっても、離脱できないほど混乱してしまったのでしょうか。

出て行くと決めた後の英国は無様(ぶざま)で、見ていて情けない。離脱派議員は「EU側とまともに交渉すると、敵の術中にはまる」「ブリュッセルが言うことはすべて罠だ」「隷属国家になる」などと疑心暗鬼で、「われわれのペースで物事を決めるのだ」と意固地になったりして、大人げない。

こうしたことは英国らしくなく、もっと、プラグマティックで実務的に物事を進めていくのが英国流だったはずだ。なぜ感情的になって脅し文句みたいなことをほざいて、作業を遅らせているのだろうか。知人と話をしてみると、当の英国人たちも驚いているようだ。

従来、加盟に反対してきた良識的な離脱派が政治の一線から退き、幼児化した政治家が前面に出たことが原因だとみている。昔のジェントルマン政治家であれば、もっと淡々と実務を進めていっただろう。具体的なことは官僚どうしで詰めていけばよい話だ。

アイルランド問題を事前に示さなかった責任

離脱協定案に反対しているいわゆる離脱強硬派といわれる人たちは、私に言わせれば発作的離脱派、離脱過激派だ。ボリス・ジョンソン前外相やジェイコブ・リースモグ議員などだが、彼らはいわゆる昔のイングランド民族主義者だ。旧・支配階級に属するので古色蒼然たる「大英帝国よ、もう一度」といった発想もある。彼らはよく「take back control(舵取り力を取り戻せ)」 というが、これまでEUにそんなに牛耳られていたわけでもない。

そもそも混乱の一因として彼らは国民投票の前にウソを言っていたことが大きい。意図的、感情的にEUの分担金とか移民問題などで不当にEUを非難したりした。彼らの過激な発言を聞いて、扇動されたのが、世の中の活況や一段と富裕化する富裕層から置いてけぼりを食らったと感じてきた庶民と貧困層だ。アメリカ的にいえばプアホワイト的な人々だ。アメリカのトランプ支持者と重なる部分が明らかにある。

――デイヴィド・キャメロン前首相は、国民投票でブレグジットは否決されると考えていた。そもそも、保守党は単独過半数を取れないので、公約した国民投票をやらなくて済む、と思っていたと後に話しました。

伝家の宝刀を抜くときは、どちらに転んでも大丈夫な準備をしてやるものだが、甘かった。

もしも、もっとまともに将来の英国・EU関係について考えていたのなら、国民投票をやると言い出す前に英国の北アイルランド地方とアイルランド共和国との関係の問題について慎重に慎重を期して考えて、この問題について国民の注意を喚起していたはずだ。そして、それでも離脱という投票結果が出た場合に備えて、北アイルランド・アイルランド共和国間の国境について、離脱後にどのように対応するつもりであるのかを国民に示していたはずである。

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