浜矩子教授「今の英国の混乱ぶりは情けない」

ブレグジットの決断そのものは正しいのだが

現状では、この陸上国境は事実上のフリーパス状態になっている。英国とアイルランド共和国がいずれもEU加盟国だからだ。だが、離脱後には状況が変わる。それでも、フリーパス状態を維持するのか。そうではないのか。そうではなくなることは、国境周辺におけるテロの再発につながるかもしれない。だが、フリーパス状態を維持すれば、それはブレクジットが尻抜けになることを意味する。このような状況に関する対応が、「合意ある離脱」への大きな障害物となっている。

最大の難関となっているこの問題について、国民投票前に国民の注意を喚起しなかった。この点については、大いに責任を問われて然るべきところだ。あの国民投票について、それを仕掛けた人々が何と甘く考えていたことか。

EUの通貨統合は苦しくなるばかりだ

――英国以外の国でもEUに対する不満、EUエリートがルールを決めていくことへの抵抗感は高まっています。

欧州統合の推進者たちは、「偉大な欧州」の実現に向けて、統合の理念を高く掲げ、その理念に対応した設計図に現実をあわせていくことこそ自分たちの使命だと考えて来た。その系譜を受け継いでいるのが、今、前述の庶民たちから「エリート層」として嫌がられている政治家や論者たちだ。

東欧から加盟してきた小さい国々は自分たちのサイズ、体型をEU型に合わせられ、いわば窮屈だったり、ぶかぶかだったりする服を無理してまとうことにあまりメリットがないなと感じ始めた。とくに、高飛車にルールを押しつけてくるドイツやフランスには怒りを感じている。後から入った国だけでなく、最近は初期メンバーであるイタリアもそうした姿勢を強めている。

――英国は通貨統合に入っていませんが、ユーロはドイツにとっては弱すぎ、南欧諸国にとっては強すぎて、いびつです。これを解決するために銀行同盟や財政同盟などユーロを軸とした政策が進められています。そうしたことも問題になったのではないでしょうか。

それはある。通貨統合は次元の違うハードルの高さだった。各国の経済状況が異なる中で、金利が1本というのは無理な話で、これをやってしまったことで、経済に変調を来している。この無理な体制を維持しようと思えば、結局のところ、加盟国たちに対する政策的締め付けを強化し、窮屈な収斂と平準化を押しつけていくほかはない。

そうすればするほど、国々は窮屈さが増し、憤懣が蓄積する。そろそろ、ひたすら統合の深化を進めなければならないという発想から離れて、わが道を行くこともできる方法を模索すべきではないか。むろん、EU官僚はそのような発想はしないだろうが。

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