マイケル・リントン ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント・インク(SPE)会長兼CEO
“大失敗”と揶揄されたソニーのコロンビア買収。それから18年、今や映画部門は年数百億円の利益を稼ぐ。収益力改善の立役者、SPEのマイケル・リントンCEOに話を聞いた。(『週刊東洋経済』4/28・5/5号)
次世代DVDの戦いはすでにBDが勝利した
1:映画は収益の変動が激しいビジネスですが、SPEは安定的な収益を上げています。
規律を持った財務を重視している。たとえばマーケティングでは宣伝効果の薄い部分の予算は減らし、一方で効果の高い部分に重点的に配分するように予算を精査・管理している。細部にわたって精査するのは非常に労働集約的な作業だが、時間をかけて徐々に低コスト体質に変えていった。今では、スタジオで働く人たちのコストに対する説明責任の意識が非常に強くなっている。
2:(2005年買収の)MGMとのシナジーは表れていますか。
ソニーはMGMへ25%しか出資しておらず、非常に限られた連携かもしれない。ただ、(興行・配給権を持つ)『007/カジノロワイヤル』は北米でシリーズ過去最高の興行収入を上げたし、DVDも記録的な枚数が売れている。そして、MGMがブルーレイディスク(BD)陣営になったことも大きい。
3:BDとHD DVDの規格争いを、コンテンツを作る側としてどう見ていますか。
市場ではすでにBDが勝利したと見なされていると思う。数字がそれを実証している(マーケットリサーチ社によると、市場シェアはBD70・3%、HD DVD29・7%=今年1月初~4月9日)。
4:次世代DVDの立ち上がりが遅く、普及しないのではという懸念もあります。
私の生活に起こった変化がなければ、その意見に賛成したかもしれない。私は自宅に60インチテレビを導入したが、大画面になるとDVDの画質がよくないことに気づいた。家族とよく自然を扱った番組を見るが、北米のケーブルテレビなどでは高画質放送が始まっており、私の家族も高画質に慣れてしまった。
CES(北米最大の家電ショー)で人気だったのは大画面テレビだ。私の家庭と同じように、他の家庭でもある程度の投資をして大画面テレビを自宅に導入する時代になるだろう。そうなるとDVDでは満足できなくなるに違いない。
5:04年にあなたをSPEに連れてきたストリンガー氏は、現在ソニー会長兼CEOとして手腕を発揮しています。
会長のスタイルは昔から一貫している。つねに言われているのは、「財政に規律を。ただし質は妥協してはならない」。それと「組織がサイロ化=縦割りになってはならない」ということだ。会長は北米トップの時代から、全社的な協力を密にするため、自ら組織に介入し、文化・社風を培ったのだと思う。だから北米には非常に風通しのよい企業風土があり、それがソニーグループ全体にも広がっていると思う。
(書き手:中島順一郎 撮影:今井康一)
Michael Lynton
1982年、クレディ・スイス・ファースト・ボストン入社。ハリウッドピクチャーズ(ディズニーの映画制作部門)社長、AOL社長などを経て、2004年SPE会長兼CEOに就任。
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