祖母は約10年間過ごした施設でもつねにニコニコしていて、相手の反応の有無に関わらず、朝は自ら「おはようございます」と周りに声をかけ、胸元に手作りの花のコサージュをつけたり、杉田の心配をよそに、90歳を越えても少しヒールのある靴を履き続けたりしていた。
死を前にして表れるのが本人の本質だとすれば、無意識であっても祖母の言動一致ぶりに杉田は鬼気迫るものを感じたという。
また、杉田が改めて気づいたのは、身繕いやあいさつに気を配るという祖母の教えは、自分の事業ともつながっていること。
「ベンチャー企業での秘書から始まった私のビジネスキャリアの延長線上で、ビジネスマナーやマネジメント研修に特化した会社を立ち上げたつもりでした。ですが、実は祖母が私に繰り返し教え込んでくれたものが事業の核になっているな、と。そういう意味では、祖母のためにも、この事業を成功させたいという思いを新たにしました」
一方で、病院での鬼気迫る姿を見せつけられて、祖母がその体を張って「死に方とは生き方だ」と自分に見せてくれている気もしたという。
「『私の最期の姿を見たでしょう? じゃあ、あなたは自分の人生をどう生きていくつもりなの?』 と祖母から問われているようで……。ずいぶん重たい宿題をもらった気分ですが、それも祖母からの贈り物だと思っています」
杉田はそう言って口を固く閉じた。
看取り士が見せた「究極のホスピタリティ」
看取り士の清水直美(48歳)が病室を訪れたのは、2018年4月下旬の午後。記事冒頭の、杉田からの面会依頼を父親が断った翌々日だった。個室のドアを開けると左中央の壁に沿ってベッドが置かれ、その先に窓があった。
それまでの呼吸苦がウソみたいに、当日の祖母はとても穏やかに目を閉じていた。昏睡状態にある祖母の耳元で杉田が話しかけた。
「おばあちゃん、お友達の清水さんだよ。かわいい人だね」
すると、祖母がウーッとうなるような声を出した。
「わかったのかなぁ」と杉田が言うと、清水が「(昏睡状態でも)耳は最期まで聞こえていますから」と伝えると、杉田は「さすがだわ、おばあちゃん」と話してフフフッと笑った。
その前日、祖母はせん妄(妄想や幻覚、記憶障害などのこと)状態で苦しんでおり、杉田はそのことをつらく感じていた。
「だから清水さんが来たとき、私の心は軽かったんですよ。祖母が少しも苦しそうじゃなかったから。確かにグッタリとしていて、素人目にも死に向かっていることは実感しながらも、穏やかな表情に安心していました」
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