異端の経済理論「MMT」を恐れてはいけない理由 すべての経済活動は「借金から始まっている」

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そして、現代貨幣理論に従えば、日本が貨幣供給量を増やしてデフレを脱却するための政策は、財政赤字の拡大だということになる。まさに、天動説から地動説へのパラダイム・シフト並みの大転換だ。

だが、このパラダイム・シフトは、やはり容易ではないだろう。

長年、既存のパラダイムを信じてきた人々にとって、そのパラダイムを変えることは精神的な苦痛だからだ。

また、異端とされる説を唱えると、主流派によって社会的な制裁を受ける可能性もあろう。

かつて、ガリレオは、天体観測により地動説を実証した結果、異端として宗教裁判にかけられてしまった。

もちろん、そこまで酷(ひど)くはないものの、現代貨幣理論は、主流派経済学者や政策当局者あるいは投資家からの批判にさらされている。

それにもかかわらず、アメリカでは、アレクサンドリア・オカシオコルテスという若い政治家が、異端説である現代貨幣理論の支持を堂々と表明した。

また、ステファニー・ケルトンをはじめとする現代貨幣理論の論者たちは、批判に対して果敢に反論して屈する気配がない。

これは、実に驚くべき光景である。

ここで注目すべきは、アメリカでは、この異端の現代貨幣理論が、もっぱらSNSを通じて広まっているということだ。

異端の経済理論が、学界の一部にとどまらずに、政治や言論の表舞台に躍り出るようなことは、以前であれば、考えにくかった。

SNSには、もちろん、フェイクニュースも広めてしまうという弊害がある。

だが、他方で、主流派や権威による無視や抑圧をすり抜けて、異端派・少数派の正しい議論を世の中に広めるという興味深い効用もあるようだ。

現代貨幣理論を「実証」した日本

さて、日本は、皮肉にも、現代貨幣理論を実証した国である。

ならば、現代貨幣理論は、日本でも一大ムーブメントを起こすであろうか。

それに関して、残念ながら、筆者は悲観的である。

権威に弱く、議論を好まず、同調圧力に屈しやすい者が多い日本で、異端の現代貨幣理論の支持者が増えるなどということは、想像もつかないからだ。

そうでなければ、20年以上も経済停滞が続くなどという醜態をさらしているはずがない。

とはいえ、まもなく元号が改まり、新たな時代を迎えようとしているというのに、悲観をかこってばかりというのもよろしくない。

(合理的な根拠は何もないのだが)改元を機として人心が改まり、経済学や経済政策のパラダイムもまた改まることに望みを託して、言論を続けたいと思う。

なお、現代貨幣理論に関心を持った方は、有志の方が作成したリンク集もあるので 、是非参照してほしい。

中野 剛志 評論家

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なかの たけし / Takeshi Nakano

1971年、神奈川県生まれ。元・京都大学大学院工学研究科准教授。専門は政治経済思想。1996年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年よりエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。2001年に同大学院より優等修士号、2005年に博士号を取得。2003年、論文‘Theorising Economic Nationalism’ (Nations and Nationalism)でNations and Nationalism Prizeを受賞。主な著書に山本七平賞奨励賞を受賞した『日本思想史新論』(ちくま新書)、『TPP亡国論』(集英社新書)、『富国と強兵』(東洋経済新報社)、『奇跡の社会科学』(PHP新書)などがある。

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