「人をダメにするベッド」が客を虜にする理由 家具ECの風雲児ベガはなぜ勝ち上がったか

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資金のない創業当初は自宅の6畳1間を職場に、在庫を持たず受発注のみに徹し、楽天市場やヤフーショッピングへと出店していった。起業した初年度の数カ月で資金繰りに苦しみ、月末支払いができなくなったために、全財産だった軽自動車を63万円で売却、しのいだこともあるという。

「1年くらい6畳1間で1日中働いていた。机の横にベッド、その隣に電話があった。いつも朝方まで仕事をして、眠いが朝、必ずお客様から電話がかかってくる。寝るに寝られない状況で走っていた」と浮城氏は当時の様子を語る。在庫切れの客へ自ら電話もかけ、怒られることを繰り返した。

「在庫を持たず楽天に出店したものの、参入コストが低いので、他社も同じことをすぐ始めて、メーカーも参入し出した。われわれの仕入れ値で売るようになり、太刀打ちできなくなってきた」(同氏)。そこでリスクはあるものの、自社ブランドの商品で在庫を抱え、メーカー機能も持つ必要性を実感する。それも、他社のプラットフォームに乗っかるだけでなく、自社ECでだ。2006年、「LOWYA」の誕生である(現在の販路は楽天が約6割、自社のLOWYAが約2割)。

従業員を率いて工場見学をする浮城社長(左)(2012年、写真:ベガ)

とはいえ仕入れ先の開拓は容易ではない。自社商品を作る決意をし、初めて中国へと飛んだ。右も左もわからず、中国人の友人と中国中をまわる。

「日本品質に合う工場を探しに、エアコンの利かないボロボロのタクシーで、現地のおいしいとは言いがたいコンビニのパンを食べながら移動した。工場の噂を聞いて遠い奥地まで飛行機で移動。やっと工場にたどり着いたら、聞いていた商品とは程遠く、交通費を無駄にしたこともあった」という。「ようやくコンテナ1個を目にして、『さてどうやって貿易手続きするの』というような調子で。貿易手続きも見よう見まねで、小さい倉庫を借りて直販していった」(浮城氏)。

最初はネット通販にメーカーが冷ややか

国内の仕入れはさらに困難を極めた。当時、どのメーカーもネット通販には懐疑的で、取引してくれる企業はごくわずかだった。その中で浮城氏は頭を下げ続け、取引をしてくれる企業から探っていった。

そして設立3年目、再び壁にぶつかる。ネット通販が一般化し、他社やメーカーが参入し始めたことが売上高を圧迫し始めた。

「3年目の赤字がいちばんきつかった。過去に単月で赤字なのは2006年8月だけ。あのときの精神的ショックは大きかった」と浮城氏は顔を曇らせる。「当時は借り入れもできない、投資先もない、社員もほぼいないと、孤独だった。相談相手がいないって、どんな心境かわかりますか。あのときを超える精神的なつらさはたぶんもうない」(同)。

どん底を何とか乗り切り、自社ECのLOWYAが軌道に乗ってきたことで、ベガの業績も上向きに転じていった。売上高は2010年3月期に10億円、2017年3月期には100億円を突破。その間の2016年6月には、東証マザーズに悲願の上場を成就した。今2019年3月期は売上高140億円へと伸びる一方、配送料増加などが響いて1.5億円の営業赤字見込みだが、来期は自社ECの伸びに加え価格転嫁や配送料抑制によって、黒字転換を目指す。

では、長期的に国内の家具市場が低迷する一方、家具、雑貨、インテリア市場のEC化率が全体の20.4%まで高まった今(2017年、経産省調べ)、先発のベガが差別化する術とは何か。それは、技術面でのもう一段のブレイクスルーと、越境ECを舞台にした海外市場の開拓だ。

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