米朝交渉決裂で「笑う日中」と「大慌ての韓国」 日本にとって最悪の悪夢は回避された

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では、北朝鮮政府は今回の結果をどう捉えているのだろうか。簡単に言えば、韓国より少し深刻に捉えている。今回、アメリカや韓国の多くの外交アナリストは、北朝鮮の交渉アジェンダにおける制裁措置撤廃の重要性に驚かされた。終戦宣言の可能性、それに連絡事務所の設立といったそれほど重要でない手順に多くの目が向けられていたからだ。金政権は主にアメリカに敵意がないことをはっきりと保証してもらいたいだけだ、と考えられていたのである。

こうした推測は、北朝鮮の国内情勢、特に同国が直面している経済危機の継続的かつ構造的問題、そして、金政権に対するエリートによる支持の不安定さなどに関する深い誤解に基づいたものだった。

危機が北朝鮮全体に広がっている

北朝鮮ウォッチャーは、平壌の高級レストランや車、高層アパートといったきらびやかな光景に気をとられてしまいがちだ。こういったものは確かに現実ではあるが、実際は、計画経済はほとんど機能しておらず、国民は「ヤミ経済」に依存している状態だ。

特に中国との越境貿易に支えられており、これによって国民は物品やハード・カレンシーを入手している。記者としてソ連の崩壊を目撃した者として、こうした状況は兆候として見覚えがある。これこそ、危機が全体的に広がっている兆候なのだ、と。

2016年より課せられている制裁は、バラク・オバマ政権の最後の年に始まって以来エスカレートしてきており、もはやほとんど機能していない北朝鮮のシステムの根幹を揺るがしている。ハード・カレンシーの収入源だった正式貿易(鉱物や魚介類、その他の中国への輸出品を中心にしたものだった)の抑制により、政権自体がひどく圧迫されるようになった。中国の銀行を対象とした国際的な取り締まりが厳しくなってから、この経済制裁は効力を持つようになった。

この経済的危機から抜け出すことは、金委員長個人の生存問題でもあるのだ。「金委員長は、北朝鮮の国民の生活を向上させない限り自分の政治生命は長くは続かないことをよく心得ている」と、元北朝鮮の上級外交官で、近来まれにみる最高位級脱北者である太永浩(テ・ヨンホ)氏が先ごろニューヨークタイムズ紙に語っている。「金委員長は実際の話、何らかの行動を起こしたいと考えている。委員長は、実際に問題を解決しているのは自分であることを国民に見てもらいたいと思っているのだ」。

さらに同氏は、こうも話している。「現在のところ、北朝鮮ではエリートと社会そのものがジレンマを抱えている。北朝鮮は変化している。資本主義と市場システムという概念は北朝鮮でかなり急速に広まってきているのだ。現在国民は自分たち自身の方法で、日々どう生き延びていくか解決したいと思っている。いわゆる指導者階級というものは信じていないのだ」。

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