米朝交渉決裂で「笑う日中」と「大慌ての韓国」 日本にとって最悪の悪夢は回避された
つまり今回、金委員長が唯一求めていたのは、制裁解除だけだった。シンガポールで行われた一回目の米朝首脳会談の時から、それは明らかなことだった。シンガポールでの会談が開かれるまで、北朝鮮側は終戦宣言を押していた。
その目的は主として核兵器およびミサイル施設と備蓄品の完全な公表を求めるアメリカ側の圧力をそらすための交渉手段だった。ところが、昨年8月下旬にアメリカがついに屈服して「宣言のための公表」取引を申し出ると、北朝鮮は尻込みし、制裁措置解除優先に方針を戻した。
北朝鮮と中国はより親密になる
北朝鮮外相とその次官は今回の首脳会談後の記者会見で、要求したのは制裁の「部分的な」解除だけだったと主張しようとした。外相らは、解除を要求したのは特に国連安全保障理事会が2016年より課している制裁措置すべてであったことを明らかにした。つまり、北朝鮮政府に最も打撃を与え、同国をそのシステム崩壊の矛盾から逃れられないようにしている制裁措置のことである。
金委員長が自らの失敗に対し平静を装おうとしているのも当然のことだといえる。委員長は制裁緩和を熱望していたエリートや大衆を安心させるだけでなく、韓国政府や国民、特に革新派と文政権にもアピールする必要がある。アピールによっては、文大統領は大規模な制裁緩和を進める勇気や裏付けを得られるかもしれない。その方法の1つは、人道的援助ならば許可されるという大きな抜け穴を利用して、食料や医薬品、その他の物資を北に大量に投入することである。
制裁緩和のもう1つの拠り所は中国である。中国政府は、今回の米朝交渉決裂が米中貿易交渉にどう影響するか、ある程度考えなければならない。今後、日中交渉がどうなるかは予測困難だが、少なくとも戦略的な意味では、今回の交渉決裂は、中国にとっては悪い話ではない。トランプ大統領は記者会見で朝鮮半島におけるアメリカ軍軍事演習について、停止とまではいかずとも中止状態を維持する意向であることを確認したが、これは中国にとっては特に嬉しい「おまけ」となる。
「中国は有利な立場にあると思う」と、元ワシントン・ポスト紙中国支局長で現在も専門家として米中関係情勢を見守るジョン・ポンフレット氏は言う。「アメリカは難しい選択を迫られている。アメリカが演習を再開し、北朝鮮が何らかの種類の実験を再開するとしたら、中国政府はどちらに対しても中立的に批判することだろう。一方、アメリカが韓国との合同演習の中止を続けた場合も、米韓同盟にダメージを与えることに、より多くの時間を割けるといった点で中国は得することになる」。
現在の北朝鮮の経済的状況を鑑みると、米朝関係が再び緊迫化する事態は避けられそうだ。金委員長自体がその必要はないと考えるかもしれないし、韓国への心証を悪くしたくないと考えるかもしれないからだ。ただいずれにせよ、「中国と北朝鮮の関係はより親密なものになり、そこへロシアも加わることになるだろう」とポンフレット氏は話す。今回の交渉決裂で、結局最も得をしたのは果たして中国だったのだろうか。
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