入居希望者が続々集まる「茶山台団地」のすごみ DIY工房やニコイチ住戸で若年層を惹きつける

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とはいえ、丘陵地にあることから坂や階段が多く、高齢者には住みづらい環境であることは間違いなく、これは如何ともしがたいことだ。耐震改修を必要とする建物も増えるなど問題は山積している。

上記の再生策について満足と感じていない人もいるようだった。住民の方々にはさまざまな境遇や意見を持つ人がおり、これも致し方がないことだ。ということで、一通りの取材を終えた筆者は本稿をどう結論づけてよいものか、と頭を抱えていた。

ところが、ある入居者がヒントとなるお話をしてくれた。1945(昭和20)年生まれで、茶山台団地には25年ほどお住まいの方だ。最後にその内容をかいつまんでお伝えして本稿を終わりにしたい。

予算があるからできる

いわく、「私たち(高齢入居者)にとって、若い人たちが周りにいて盛り上げてくれることは大変うれしいこと。さまざまな取り組みをしてくれていることで、少しずつ(過疎化による団地の停滞などの)状況も改善されています。ただ、大切なのは広がりつつある住民の輪を継続して広げていくことだと思っています」とのことだった。

茶山台団地の再生策は、堺市が主催し、泉北高速鉄道や南海電鉄グループなどの企業、NPOが協力して展開する「シニア向けサービス創出支援事業」によるところも大きい。つまり、予算があるからできることなのだ。彼は、予算がなくなっても住民主体で団地再生に取り組めるような体制づくりの必要性を説いているわけである。

団地再生の話題は、ともすると高齢入居者の居住環境の改善ばかりに焦点が当てられ、すべてが一緒くたにされがちな側面がある。ただ、それぞれで住民の構成や立地、環境などがずいぶん異なるもので、必要とされる再生策はケースバイケースでなかろうか。

例えば、入居率高い団地は外国人の入居者が増えたためで、ゴミ出しなどのトラブルが増加したことにより住環境が悪化している、なんていう話もよく聞かれる。

茶山台団地も同様だが、何より団地再生の取り組みはまだ始まったばかりである。月並みではあるが、それぞれの再生策のトライアンドエラーを許容しつつ、一過性の盛り上がりに一喜一憂せず長い目で見守ることが、今強く求められているように感じられた。

田中 直輝 住生活ジャーナリスト

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たなか なおき / Naoki Tanaka

早稲田大学教育学部を卒業後、海外17カ国を一人旅。その後、約10年間にわたって住宅業界専門紙・住宅産業新聞社で主に大手ハウスメーカーを担当し、取材活動を行う。現在は、「住生活ジャーナリスト」として戸建てをはじめ、不動産業界も含め広く住宅の世界を探求。

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