実際にわが子を殺したという人からの問い合せが来たこともあった。
「精神疾患になるのは何も悪いことじゃない。不登校やひきこもりも、今や認められた生き方です。
私はただシンプルに『殺すな!!』と言いたいんです。だんだん世の中は『殺す』ことありきで考えるようになっていると思います。
何より、まずは『殺すな!!』なんです」
押川さんは現在、自分が関わった精神病疾患の患者が、閉鎖病棟に入り、開放病棟、グループホームに移行し、最終的に普通の自立した生活を送れるようになるまで見届けたいと思っている。
「ただ私も50歳になりましたから、バリバリ活動できるのは残り5年だと思っています。今20代で入院した子を最後まで見守ることはできません。
だから私がやってきたことを、自治体の単位でできるようにしたいと思っています。自治体で取り組む形にしないと、彼らは生きる道がなくなってしまうんです」
見放された子どもたちの「親」になる
押川さんは生まれ育った北九州市の自治体を通じて、彼らが適切に医療や福祉につながれる仕組みを作りたいと思っている。
そのためには、治療を拒む患者を説得して医療につなげ、面会を通じて人間関係をつくり、退院後は彼らがグループホームなど地域社会で生活できるよう見守る、一連の役割を担うプロフェッショナルが必要だ。
そのプロフェッショナルを、自治体で雇用・育成できるようにする。つまりは自治体が、親からも見放された子どもたちの「親」になること。それが、押川さんの願いだ。
「それが彼らに対する恩返しだと思って活動しています。自分の人生が『ちょっとは人の役に立った』というものであってほしいんですよ」
そして現状を世の中に知ってもらうという意味でいちばん期待しているのが、冒頭で紹介した漫画『「子どもを殺してください」という親たち』だ。
押川さん、編集者、漫画家の鈴木マサカズさんの3人で綿密にやり取りをして作品を作っている。ノンフィクション作品だけに普通の漫画よりも手間暇がかかっている。
作画ができた後にも、押川さんが細かい部分をチェックする。例えば「精神科病院の中ではパーカーのヒモは自殺防止の観点から外さなければならない」などだ。
「現実の問題にとても近い漫画になっていると思います。あらためて本を読むと、あまりにリアルに描かれていて、厳しい現場を思い出して具合が悪くなります。
連載が始まった後は漫画の影響力の大きさに驚いています。まずは軽い気持ちで読んでもらって、そして現実を知ってもらいたいです」
押川さんは「自分は専門家でもプロフェッショナルでもなく、究極の一般人だ」と語る。専門家は効率重視になりがちで、めんどくさいことにはなるべく関わらないように動く傾向があるが、押川さんは自らどんどんめんどくさいことに関わっていく。
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