事業としてある程度成功した後は、メディアでの発言を増やしていった。
2001年には自身の経験から『子供部屋に入れない親たち―精神障害者の移送現場から』(幻冬舎)を出版した。
「メディアでさわがれたら、コピー会社がいっぱいできました。ただ単に、患者さんを病院に連れて行くという仕事は、自分がやらなくても大丈夫だなと思いました。
私は一つひとつのケースに対しもっと丁寧に対応したいと思いました。病院に連れて行って終わり、というのはあんまりにも悲しいじゃないですか」
重度の患者をもっと丁寧にケアしたい
長く仕事をしていると、リピーターも現れるようになった。同じ患者を何度も精神科病院に連れて行くことになる。
「つまり、病院が治療できていないまま、早期に退院させているわけです。そこに対しても、きちんと対応していこうと思いました」
押川さんは、対象者が病院に入院した後も積極的に面会に行く。退院する際も、社会が受け入れてくれるようサポートをする。
現在では症状の軽いケースや、本人が治療を望んでいる場合は、精神科の医療につながりやすい状態になっている。
反面、症状が長期化・慢性化した患者さんや、院内で問題行動を起こすなど対応困難な患者さんほど、家族が入院治療を望んでも、断られる場合が多い。
体よく「ベッドに空きがない」と言われてしまい、受け入れてもらえない。
「法律が改正されるたびに、治療が終わっていなくても、患者さんの意思を尊重して早期に退院させられるようになりました。
もちろん患者の人権は大事です。ただ、私が見てきた精神病疾患患者の多くは病識がありません。その彼らに意思の確認を取れば、当然『入院したくない』『治療を受けたくない』と言います。そんな彼らの意思を一方的に尊重して早期に退院をうながすのは問題があると思います。重症な自傷他害の恐れのある患者さんを措置入院させたとしても、1~2週間で出されてしまう場合がほとんどです。
家族はつらいどころじゃありません。まさに『殺される』『殺す』が差し迫った話です。実際に、事件が起きているケースもたくさんあります」
現在、押川さんにかかってくる電話の相談は
「このままでは子どもを殺すかもしれない」
「このままでは子どもに殺されるかもしれない」
という「殺す」が含まれた内容がほとんどだという。
『「子どもを殺してください」という親たち』に対するウェブ上のコメントも、非常に長く重たいものが多い。
「漫画を読んで、殺すのを踏みとどまりました」
などやはり「殺す」という話もある。
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