発達障害24歳男性と「会話」が成立しないワケ

「抽象的な指示」をされても理解できない

やむをえず、フミヒコさんの話を遮り、軌道修正することも、何度かあった。たまりかねて、質問の答えになっていないことを指摘すると「私の中ではつながっているんです」という。「(思考が)いったん根っこに戻って、(再び話し始めるときには)別の枝に出るという感じ」と説明された。

フミヒコさんによると、これまで同級生など周囲の人たちからは「話が通じない」「扱いづらい」「表情がわからない」と言われてきた。彼自身は「自分には共感力ない」という自覚がある。一方で「私の言動に共感できる人はいない」「正論を言っているのに、孤立する」とも感じてきたという。

フミヒコさんと話をしながら、あらためて、発達障害がある人の意思や心情に触れることは、難しいと思った。フミヒコさんの言わんとしていることを、ちゃんと酌み取れているだろうか――。そんなストレスを感じながらも、わかったことがひとつある。それは、話を途中で遮られ、何度も同じ問いかけをされるフミヒコさんもまた、私と同じようにストレスを感じているのだろう、ということだった。

人がなぜうれしくて泣くのかがわからない

出身は「車がないと生活できない」という、西日本にある小さな地方都市。父親は公務員で、生活は安定していた。

今思うと、自分には共感力が欠けていると、初めて感じたのは小学低学年のころ。オランダの元K-1王者、アーネスト・ホーストが大番狂わせの末、4度目のK-1優勝を果たした時の試合を、テレビで見ていた時のことだという。

涙を流すホーストの姿が不思議で、一緒に観戦していた父親に「あいつ、なんで泣いてんの?」と聞いた。父親は「うれしいからだよ」と教えてくれたという。人間はうれしいときにも泣くんだ――。このとき、「うれし泣き」という言葉は覚えたが、その感情は、いまもよくわからないという。

中学校に入ってからは「(同級生と)ケンカばかりしていた」。原因を尋ねると「相手が突然襲ってきた」という。あくまでも、フミヒコさんから見える“光景”である。

当時、母親からはたびたび「普通にしていなさい」「目立つことはするな」と言われた。母親としては、どうにも同世代の子どもたちになじめない息子を心配しての小言だったのだろうが、フミヒコさんは「『普通に』『普通に』って。そればかり。普通ってなんだよ、って思ってた」と、不満そうに振り返る。

高校卒業後に進んだ専門学校時代、教師の紹介で、同級生十数人と一緒にアルバイトの面接を受けたとき、フミヒコさんだけが不採用となる出来事があった。就職活動をしても結果が出ない。もしかしてと、心療内科を受診したところ、自閉症スペクトラム障害と診断されたという。

「個性だと思っていたものが、個性を通り越して病気だったんだと思っただけ」。特段、落ち込むことも、障害がわかってホッとすることもなかった、とフミヒコさん。

父親からは「焦って仕事を探そうとするな」とだけ言われた。もっと早く気が付いてやれなかったことに、責任を感じている様子だったという。

その後、別の専門学校で学んだ後、現在は、東京で一人暮らしをしながら、声優の養成学校に通っている。学費や家賃、携帯電話料金などは両親が負担している。

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