鎌倉土産の超定番「鳩サブレー」の意外な来歴 鳩の形は120年以上前から変わっていない

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単に売り上げを伸ばすためだけなら、出店エリアを拡大すればいい。これに対する豊島屋の考えはシンプルだ。地元・鎌倉を代表するブランドとして営業エリアを広げる意向はなく、品質の安定を図る観点からも、遠方からの出店依頼は断っているという。

インターネット販売を除いて、豊島屋の売店が神奈川県内や都内の著名な百貨店などに限られているのも“無理をしない”経営方針の一環だ。

久保田陽彦(くぼた はるひこ)/豊島屋社長(4代目)。1959年生まれ。慶應義塾大学卒業。1987年家業に入る。2008年より現職(写真:筆者撮影)

4代目も、先代らに負けず劣らずのアイデアマンだ。若宮大路(由比ヶ浜から鶴岡八幡宮に通じる参道)にある本店には、「鳩これくしょん」という本店限定の売り場がある。

鳩をモチーフにしたかわいらしい、付箋、クリップ、消しゴム、マグネットといった文具を中心とする、ここでしか買えないコレクショングッズの数々がそろう。コアなファンづくりの一環として、この売り場を考えたのは4代目だ。

「鎌倉あっての『鳩サブレー』」と語るように、豊島屋および4代目の“鎌倉愛”も半端ない。「地元・鎌倉に恩返しを」との思いから、5年ほど前に地元3カ所の海水浴場(由比ガ浜海水浴場、材木座海水浴場、腰越海水浴場)の命名権(年間1200万円、10年間)の契約を鎌倉市と結んで話題になった。

しかも、海岸の名前はそのまま。「慣れ親しんだ名前がいい」という地元住民の意見を採り入れた、4代目の英断に各方面から賛辞の声が相次いだ。

鳩サブレーの抜き型(写真:豊島屋提供)

「鳩サブレーの味は未完成。まだまだおいしくできると思っている」(久保田社長)

現在でも豊島屋専用に製粉された特定の産地の小麦粉やバターを使っているが、決して満足はしていないという。高品質の材料であればいいというわけではなく、「鳩サブレー」により合った原材料を絶えず探し続けている。

一方、味の決め手となる「ワリ」(原材料の配合率)は、明治時代から変えていない。現在も使用している鳩サブレーの抜き型の原型デザインは、初代が当時作ったもののままだ。

だが、原材料は今なお試行錯誤を繰り返しながら変わり続けている。理想の鳩サブレーを追い求めて、4代目は今日も店頭でお客さまを出迎える。

内藤 修 帝国データバンク 横浜支店情報部長

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ないとう おさむ / Osamu Naito

1977年、横浜市生まれ。2000年に同社入社。本社情報部、産業調査部、東京支社情報部を経て、2018年10月から現職。入社以来18年以上にわたって、企業取材、景気動向のマクロ分析とともに、注目業界の動向やトピックをまとめた『特別企画レポート』の作成を手がける。専門は、倒産動向分析、企業再生研究。

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