会社員が学ぶ「東大の特別講座」のすごい挑戦

ソクラテス、孔子が行った「問答形式」の実践

中島隆博(なかじま たかひろ)/東京大学東洋文化研究所教授。1964年生まれ。専門は中国哲学、比較哲学。主な著書に『共生のプラクシス-国家と宗教』(東京大学出版会、2011年、和辻哲郎文化賞受賞)、『ヒューマニティーズ 哲学』(岩波書店、2009年)、『思想としての言語』(岩波書店、2017年)など

中島:わたしには実はある野望がありました。何かというと、EMPというのはものすごく実験的な場所で、始めるとき、われわれはどうすればよいのか、そのやり方がわからなかったわけです。ただ、今までとは違うことをやらなければいけない。やるんだったら学問的にも本当に最先端の議論をしなければいけない。でもそれを単に研究者相手にしゃべるんじゃなくて、社会人の方と一緒に作り上げていく。ある意味で新しい日本の学問の形を作るんだという、そういう野望があったわけです。

それはじわじわと影響してくるもので、大学教育、あるいは中等教育もそうですが、教育のあり方になにがしかのインパクトを将来与えることができないかなという思いに繋がります。このフォーマットが新しい学問を開いていき、それを中学生であれ高校生であれ大学生であれ、面白いねと思ってくれるようなものを作りたいと思っていました。

座談会という形式を選択したのには、いくつか理由があります。例えばみなさんは『論語』をご存じですね。あれも問答体の1つです。

「問答形式」の可能性

小野塚:そうそう。ソクラテスもね。

中島:ソクラテスだってそうです。朱子学でも『朱子語類』は問答体なんです。問答体の伝統は学問の中で重要な役割をけっこう果たしてきました。

一人の著者が自分の思いの丈を書いて体系化するというのは、かなり特殊な学問のあり方だと、わたしは思っています。問答体のいいところは、そこに参加している人たちが、自分一人が真理を握っているとは誰も思っていない、思えないということです。しかも、しばしばみんな間違う。「あ、今のなんか違ったな」と気づくわけです。こういう発見的なプロセスが組み込まれている。これを経験を積んだ東大の先生相手にやってみるというのは、大変に面白そうだと思ったのです。

でもそれが豊かなものになるためには、そこに参加する先生が、「わたしはこの学問の権威ですから」みたいな態度を取ってしまったらうまくいきません。そうではなくて新しい知のあり方、学問のあり方を、今ここで作ろうとしているんだと思って、関与していただかなければなりません。発見的な知へと関与してもらうためのフォーマットから見直すことで、はじめて新たなものが出てくる。こんな思いを持っていました。

『世界の語り方2:言語と倫理』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

最近つくづく思うのですが、読者というのはこれから新たに育っていくのではないでしょうか。今いる人たちが読みやすく消化しやすいものをただ並べても、みんな食傷気味なわけです。そうではなくて、なんか歯応えがあって、なんか噛みづらい。それでもなにかが起きているようなライブ感のあるものが求められているのではないか。そして、そのような読書経験を通じて、読者というあり方自体が変わり、それに応じて、わたしたち社会に対する想像力も変わってくるのかなという気がするんです。

そういう意味で、この「語り方」に込めた思いは、わたしの中では強くありました。「語り方」を変えてみよう! ――これが新たな「学問」の扉を開くのではないでしょうか。

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カーリング人気萌芽の時代から、平昌五輪での銅メダル獲得まで戦い抜いてきた著者。リーダーとして代表チームを率いつつ、人生の一部としてカーリングを楽しめるにまで至った軌跡や、ママさんカーラーとして子育てで得た学びなどを語る。