日本の研究が中韓台の後塵を拝する本質理由 理系人材の「選択と集中」がIT遅れを招いた
巨大な山のような論文の中から、関連のあるものを見つけ出して、そこから砂金を効率的に探すにはどうしたらいいのかという話に例えてもいいかもしれない。
「まずやらなければいけないのは、砂金を探す前にどこに山があるのか、今どこにいるのかを見極めることです。地図を作って、現在位置を定め、目標とする地点を描くと、その中でここを通るほうが近道だとか、ここに砂金がありそうだとか見えてくるでしょう。それが地図を作る理由ですが、地図ができると思わぬ発見もあったりします」
現在の情報科学の技術は、IoT、AIそれにGPU一色と言ってもいい状態だ。しかしこの分野の地図を描いてみると、もう10年前からコンピュータ・サイエンスの中でこういった分野が注目されると分析することができた、と梶川教授は言う。それだけではない。
「アメリカがソフトウエア・エンジニアリングの分野で突出していることもわかります。このソフトウエア工学というのはとても泥くさい分野に見えるのですが、産業のことを考えるとこのソフトウエア開発がいちばんビジネスになる。その方法論にかなり力を入れて研究しています。思わぬ発見というのはこういうことですね」
あまりにも存在感がない日本
そこで気になるのが、このコンピュータ・サイエンスの分野で、日本の位置づけはどうなのだろうということだ。人口減少が世界の国々に先駆けて進む日本では、イノベーションによる成長力の確保を図らなければ、社会そのものが維持できなくなる可能性が大きいからである。
トップ10%論文(被引用回数が上位10%に入っている論文)だけを分析してみると、日本の存在感がないことが明らかになったと梶川教授は言う。
「中国とアメリカが他を圧倒的に引き離しているのですが、日本は中国どころか韓国や台湾に比べてもトップ10%論文の数が半分ぐらいしかない」
この傾向はもうかなり前からだ。日本の高等教育、科学技術政策を見ると、1950年代、60年代に理工系人材を倍増させた。重厚長大産業である鉄鋼とか化学、機械などの産業が必要とする学生を増やした。それが80年代の自動車や半導体産業を支えたのだという。そして、無医県を解消するために各都道府県に医学部をつくった。
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