日本の研究が中韓台の後塵を拝する本質理由 理系人材の「選択と集中」がIT遅れを招いた

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同じ研究をしている人同士なのに、その間が結構離れていることがある。梶川教授は、博士課程の最後の1年間を、論文の分析、計量書誌の研究に充てた。もともとは自分の研究に役立てようという気持ちだったが、それだけでなくいろいろな分野に応用できるのではないかということにも気がついた。俯瞰的に物事を見ることで「研究の現場にどっぷりつかっている研究者には見えない景色があるのではないか」という。

さらに発想が広がる。見えていない研究や技術を可視化し、発掘することで、企業の研究開発や国の研究開発政策に応用できるのではないか。研究者といえども、そんなに多くの研究論文を読めるわけではないし、適切な研究成果をすべて探し当てるのは不可能とは言わないまでも、かなり困難な作業である。計量書誌学を使ってこの課題を解決できるとすれば、研究の効率は飛躍的に伸びるはずである。

政策によってイノベーション力を高められれば、日本も何とか世界に伍して競争できる状況に戻れるかもしれない。しかし、と梶川教授は話を続ける。

「本質的に重要なのは、政策目標やアジェンダの設定と、それを達成するためのデザインです。現状がどうかとか、この分野が伸びるとか、今後出てくるのは何か、というのはあくまでも分析の話。この分析と政策をデザインすることの間には、本質的に論理的な飛躍があります」

分析と知の掛け算

ただ、分析をせずに政策を設計することにも無理があるという。まずアイデアが出てこない。極めて平板になりやすいし、効率が悪い。

「たとえば、今後Society5.0やIoT、AIを研究すべきだと言っても、政策担当者自身、中身がわかっているわけでもなければ、どう振る舞うかはともかく、心の中で確信を持てているわけではないでしょう。それに人に説明するときには、その政策を推進するために、なにがしかのエビデンスが必要です。また、推進すべき政策や施策がない中で、データを虚心坦懐に眺め、分析する中でやるべきことが見えてくることもあります」

だからこそ分析が必要だし、いろいろな分析手法を動員すればかなり効率的にエビデンスを構築することができ、効果的な政策のデザインにつながる。数万とか数十万とかいう調べ切れないようなデータがあっても、分析と知の掛け算によってたちどころに関係が見えてくるのだ、と梶川教授は言う。

「データを分析してエビデンスを作る、発見するというのは、一見遠回りに見えるけど、実は効率がいい方法だと思います」

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