すると、里見はちょっと困った顔で言った。
「いや、入っていなくて。というか、正確にいえば彼は既婚者でした。離婚調停中で、3月に調停の結果が出て、離婚が決まるようです。今財産分与で揉めているそうです」
ほら、来たか! 既婚者が、数カ月遊ぶために調子のいいことを言っているのではないかと、私は疑った。
婚活アプリを遊び目的で使っている男性たちは、1人の女性を数カ月程度遊びたおし、うまい理由をつけて別れ話を切り出し去っていくのだ。“結局離婚ができなかった”というのが結末ではないか。
しかし、里美は彼を信じ切っていた。もしかしたら本当の話かもしれないし、頭ごなしに男性を悪く言うと彼女を傷つけてしまう。
そこで、こんな言い方をした。
「今は恋愛が始まったばかりで彼のことが好きだろうし、私が何を言っても聞く耳を持たないと思うから、このまま見守るけれど、彼は独身ではなく既婚者よ。恋愛ではなく不倫だからね。冷静に彼の動向を見ていって、時間を無駄にしないようにしましょう。休会届けは預かるけれど、休会中でも相談したいことがあったら、いつでも遠慮なく連絡してきてね」
そして、4月になってまた里美から連絡が入った。
「やっぱり退会させてください」
退会届を書きに事務所に来た里美に、聞いた。
「離婚調停は無事終わって、離婚は成立したの?」
「それが、3月が6月になったんですけど、奥さんが6月は出られないと言って来て、7月になりました」
そんなに二転三転して、男性は本当に離婚する気があるのだろうか? そもそも離婚調停をしているというのが作り話なのではないいか。私は、ますます男性に不信感を抱いた。
アプリで騙される女性が後を絶たない
これまで、婚活アプリで騙された女性たちをたくさん見てきた。
アプリで知り合った男性が既婚者とは知らずに婚約して結婚式まで予約した女性、独身を装った既婚者に性病をうつされた女性、年齢も経歴も詐称していた単身赴任者に遊ばれた女性、高額商品を契約させた後に男性が姿を消してしまい毎月のローンを支払い続けている女性など、私のところに相談に来た被害者は後を絶たない。
私は、里美に言った。
「退会の意思が固いのなら止めないけれど、会員じゃなくなっても、何かあったらすぐに連絡してきてね」
「はい」
明るく答えた里美だったが、どこか寂しそうだったし、肌荒れしているのも気になった。
ただ里美の人生は里美のものだし、35歳の大人なのだから私に何を言われようと自分の意思を貫くだろう。里美はこれまで、腕のあるSEとして自立して働き、いくつかの恋をし、人生を切り開いてきた聡明な女性だ。もしもこの恋愛がうまくいかなかったとしても、また立ち直って次の新しい恋を模索していくに違いない。
私は、そう信じて、帰っていく里美の姿を見送った。
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