そこから7月、8月、9月と過ぎていったが、里美からはなんの連絡もなかった。
心配はしていたものの、こちらから連絡を入れるのもはばかられた。
と、10月もあと2日で終わろうとしていたときに、1通のメールがきた。
「ご無沙汰しています。吉岡里美です。いろいろとタイミングを逃してしまい、報告が遅くなりましたが、かねてよりお付き合いしていたアプリの彼と、本日入籍しました!」
7月に離婚が成立し、8月に一緒に住み始め、9月にプロポーズ。その後は、それぞれの両親に挨拶、両家の顔合わせを済ませ、無事に婚姻届を役所に提出したという。
すべてが私の取り越し苦労だった。成婚の話はいつ聞いてもうれしいし、幸せな気持ちにさせてくれる。“ヨッシャー!”私はLINEを読みながら、小さなガッツポーズを決めた。
「おめでとう! これまでの話を聞きたいわ。お祝いしましょう!」
すぐに返信した。
そして11月に入り、里美がお祝いのランチを兼ねて、私の事務所にやってきた。
彼に固執するつもりはなかった
7カ月ぶりに会った里美の顔は、幸せに満ちあふれていた。これまで会った中で一番きれいだった。そして、弾けるような笑顔で、こう言った。
「彼に出会ってから怒涛の10カ月でした。鎌田さんにはいろいろご心配をかけたけれど、ちゃんと結婚できて、本当によかったです」
私も、これまでの思いを正直に告げた。
「アプリの出会いだったし、私は仕事柄、アプリで騙されている女性たちをたくさん見てきているから、彼が“既婚者だった”という時点で、騙されているんじゃないかと思っていたのよ。離婚調停も、3月が6月になり7月になり、どんどん伸びていくから、これは絶対あやしいと思っていた(笑)」
すると、里美も言った。
「鎌田さんから再三“信用して大丈夫なの?”と言われていたので、私もどこか冷静に彼を見ていました。だから、彼に固執するのではなくて、もしこれがダメだったら、また新しい出会いを模索しようと思っていました。だって、私自身が、アプリで遊んでいる男性たちを目の当たりにしたことがあったから」
里美がSEとして、ある有名な大手企業に出向していたときのことだ。そこの27歳と35歳の男子社員が、オフィスの斜め向かいの席で軽口をたたいていた。
「すごいよ、アプリ、入れ食いだよ。飲み代出して、結婚をチラつかせれば、やらせてくれる女が多いよ。仲良くなって飲み会開けば、その友達ともさらにやれる。アプリ代、ご飯代出しても、元が取れるよ」
超有名企業のエリート社員で、見た目もオシャレで、トークもうまい。“婚活アプリ”という“婚活”を目的としたサイトで出会い、会社の名刺を出し、結婚を匂わせ、甘い言葉で口説く。女性たちはそれを本気にして、手中に落ちていく。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら