日本の物価を安定化し経済を活性化する方策 浜田宏一×渡辺努×安斎隆:鼎談
渡辺:日本の今の教育や人材の問題に関して、一言だけ申し上げたいんです。実は、私はかなり変わってきたと実感しています。私のゼミの学生は毎年10人ぐらいいるんですが、2年に1人ぐらいは就職せずに、起業する人が出ています。しかも優秀な学生ほどその傾向が強い。「日銀を蹴りました」「財務省を蹴りました」って言って、起業するんですよ。女性にもそういう人が出てきています。皆にうらやましがられるような大企業に就職しても、何年か経って「やっぱり辞めて起業したいです」と言う。
私の世代では考えられませんでした。勉強のできる順に大蔵省、日銀に行く、銀行に行くというふうで、その秩序は崩れなかった。ですが、今はそれが大きく崩れてきた。あまり知られていない変化ですが、私はこうい若者を見ると日本もまだまだ大丈夫と確信します。
安斎:それとね、最近、みんな言うんだけど、東大で文科1類に入ったら、昔は法学部がいちばん人気だったでしょう。今、行かないって。
渡辺:はい、そうです。本当に。法学部は定員割れしちゃうんです。
浜田:それでは法学部は大変だね。私は最初、法学部にいましたが、実体法の勉強、民事訴訟法や行政法では先生たちの論理構成力には舌を巻いたが、内容は砂をかむような感じがして、経済学部に変わったんです。経済学では物事はこういうふうに動くんだということがわかる。ただ、最近になって、内閣府の仕事などしていると、“目的のために相手を説得する技術”というのは法学部で学んだのかなと思うところがあります。法学部の学生にもエールを送りたいですね。
最近、黒田東彦日銀総裁から総裁の教養学部、法学部での、経済学者も含めた講義の感想を知らせてもらう機会がありました。黒田さんは修行時代に、来栖三郎、碧海純一の各教授に影響を受けたと言っていました。私も川島武宜教授、尾高朝雄教授の影響を受けています。先生方にずいぶん目を開かされていることを改めて感じました。
理科系・文科系と分けずに、ジェネラルアーツに
安斎:AIの時代になってくると、企業でも暗記だけじゃなくて、さまざまな教養をベースに自分の判断ができる人を求めています。大学の教育も変わっていかないといけない。先ほどの学部の話で言えば、入って1~2年勉強してから、専門を選べるようにするといいですね。
浜田:アメリカの学者に創造性があるのは、ジェネラルアーツでいろいろなことを学ぶからだと思います。創造性の大部分は学際間の類推から生まれると川島教授から学びました。理科系とか文科系とかいうこともまったく意味がない。高橋洋一さんは理科系出身で、日本の経済学部出身者は数学のできない人が多いので、「数学ができると経済学の世界で威張れる」と言っていた。
僕のゼミにいた中で、いちばん数理経済学の適性があったのは(前日銀総裁の)白川さんです。彼の昔のBIS(国際決済銀行)流の政策論では、若年も含め失業者がいっそう増えると心配して、失礼なことを言って東洋経済新報社で出した本で批判してしまった。仲直りしたいんですけど(笑)。この部分はボツかな。
安斎:いや、この話、いいですね(笑)。