日本の物価を安定化し経済を活性化する方策

浜田宏一×渡辺努×安斎隆:鼎談

左から渡辺努・東京大学大学院教授、内閣官房参与の浜田宏一・イェール大学名誉教授、セブン銀行の創業者で現在は同社特別顧問の安斎隆氏(撮影:尾形文繁)
アベノミクスの目玉として、黒田東彦総裁の下で日本銀行は2%の物価目標を掲げて、アグレッシブな金融緩和政策を行ってきた。しかし、5年以上が経過して、物価目標は達成されていない。どこに問題があるのか。また、今後は、日本経済にとってどのような取り組みが必要なのか。アベノミクスの指南役である内閣官房参与の浜田宏一イェール大学名誉教授と、物価研究の専門家である東京大学大学院の渡辺努教授、セブン銀行の創業者で金融に多様な面から取り組んできたセブン銀行の安斎隆特別顧問が語り合いました。鼎談は安斎さんの呼びかけで実現し、セブン銀行本社で行われました。(以下、敬称略)

 

――まず、アベノミクスに理論的支柱を与えてきた浜田先生からお願いします。

浜田宏一(はまだ こういち)/イェール大学名誉教授。経済学博士。第2次安倍晋三内閣で内閣官房参与。1954年東京大学法学部入学、57年司法試験第二次試験合格、58年東京大学経済学部へ学士入学。65年経済学博士(イェール大学)。81年東京大学経済学部教授。86年イェール大学経済学部教授。2001年からは内閣府経済社会総合研究所長を務めた。国際金融論に対するゲーム理論の応用で世界的な業績をあげる。日本のバブル崩壊後の経済停滞については日本銀行の金融政策に問題があると主張、量的金融緩和などの必要性を主張して「アベノミクス」の理論的指導者となる。

浜田宏一:自分で褒めるのも何ですが(笑)、アベノミクスは効果を上げたと思っています。5年で250万人以上の新たな雇用が生まれた。後楽園ドームの収容人員が5万人ですから、その50個分です。ホームレスのテント村も顕著に縮小してきた。国民所得は約25兆円増えました。

われわれの経済生活には物価上昇が重要なわけではない。雇用が重要だし、新卒学生が職業を選択できる状態をつくった。それは認めていただきたい。マネーの量的効果を軽視する人がまだ日銀にいて驚きましたが。

ただ2013~14年には「期待」の効果も働いたのですが、時間を経るにつれて、金利は当然、効かなくなるし、マネーの量の効果も薄れてきた。為替も動きにくくなってきたと思います。

現在、日銀審議委員の中には、まだ物価が上がっていないから「金融緩和を拡大せよ」って言う人もいますが、一部の業種では非常に労働が逼迫して、日本経済は供給過剰から、供給が制約になる状況に変わっています。ですから、金融政策も正常化に向かっていくでしょう。需要はもう天井に来ているので、天井そのものを上げる政策、すなわち成長戦略のほうが重要になってきています。

企業の価格の決め方に原因がある

―― 渡辺先生は、物価が上がらないのは供給サイドのほうに理由があるのではないか、と指摘していらっしゃいますね。

渡辺努:まず、アベノミクスが始まった当初の議論は、量的緩和によって需要を喚起する必要がある、需要さえ増えていけば物価は上がっていくというものだったと思います。そして、大規模な金融緩和を行って、需要は増え、失業が減りました。ここまではシナリオどおりだったわけです。しかし、価格の上昇にはつながらなかった。これが誤算だった。

実際には、2013~14年にかけて、一瞬、物価が上がっていったのですが、その要因はほとんどが円安で、輸入原材料の価格が上がり、それを転嫁する動きが起きたという事情でした。逆に言うと、それしか起こらず、国内の需給で価格が安定的に上昇していくような力が生まれなかった。だから2015年夏ごろから円高に反転すると、物価もまた下がってしまった。

金融政策は円安を通じたルートでは効くということは確認できたけれども、サステナブルではない、各方面に価格の上昇が広がっていかなかった。なぜそうなのか。

私は企業が原価の上昇を転嫁する行動を取らない、ということが重要なポイントだと思っています。原材料の価格は上昇し、人件費も多少なりとも上がってきたのに、企業のプライシング行動がなかなか変わらなかった。

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