原宿のゲストハウスに3カ月間滞在し、秋葉原や中野といったサブカルの聖地を巡る日々。漫画専門の書店「まんだらけ」を訪れたときは、言葉にならないほどの感動を覚えた。このときの経験や、漫画翻訳家としてのキャリアを考え、詩文奈さんは2007年に日本への移住を決める。
イタリアでは、漫画翻訳家という仕事への評価が高くない。技術があってもギャラは一定で、地位も上がらない。翻訳家としてさらに上を目指すために、ステージを変える必要があったのだ。
翻訳とは言葉でなく、“文化”を変換すること
こうして、日本で暮らすようになった詩文奈さん。その生活は昼夜逆転しており、午後4時ころから始まる。起きてまずパソコンを立ち上げ、国際ニュースやアニメ・漫画ニュース、メール、SNSをチェック。そして朝まで翻訳活動を行うという。
1冊の漫画を翻訳する期間は、大体3日から1週間。ほぼ家にこもりきりで仕事をするため運動不足になると、詩文奈さん。「翻訳は地味な仕事。家に閉じこもってダラダラ仕事をするから、ゾンビ状態になっちゃう。早く人間になりたーい!」と、『妖怪人間ベム』のせりふを引用してこぼす。一方、翻訳の楽しさとして、さまざまな作品にかかわれることを挙げる。
「この前はホラー漫画、今は忍者漫画、次は青春漫画と、作品のバリエーションがたくさんあるからまったく飽きないわ。何といっても、無料で漫画を読めてお金ももらえちゃう。これってすごくない?」
『電影少女』を翻訳したときは、感動で涙があふれ、文字が見えなくなってしまったほどだったという。忘れられない思い出は、パーティで『ジョジョの奇妙な冒険』の作者・荒木飛呂彦先生に会えたこと。「神様が隣にいる!って大興奮したわ。永井豪先生やちばてつや先生、池田理代子先生にもお会いできたし、16歳のときの私が知ったら幸せすぎて死んじゃったかもしれない!」
そんな詩文奈さんにとって、翻訳とは言葉でなく、“文化”を変換することだという。たとえば、「ただいま」「お帰り」という会話には、家に帰ってきた安心感や、歓迎する温かい気持ちが込められている。それを理解したうえで、イタリア語に翻訳しないといけない。
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