「攻殻機動隊」をイタリアに届けた女子の現在

「ジョジョ」など翻訳した数、実に600超!

「イタリアは漫画の市場が小さくて、プロとして生活できる環境ではなかったの。だから、夢をかなえるためには日本に行くしかないと思って、日本語の勉強を始めたんです。日本語で日記を書いたり、漫画を日本語で読んだり。日本人の文通相手を探していて、50人と同時にやり取りしていたときもあったわ」

夢に向かって、日本語を勉強しながら漫画を描く日々。一方、家庭が裕福でなかったため、高校生の頃からさまざまなアルバイトをするように。

「夏になると、畑で洋ナシや桃の収穫をしていました。バイク便もしたし、運送屋のアシスタントで、バルへ水やビールを配達する仕事も。力仕事だったから、(腹筋が)すごいシックスパックだったのよ!」

高校卒業後は、日本語コースのあるボローニャ大学へ。ここでも日本語の勉強と漫画創作を続け、卒業を間近に控えた1992年、大きな転機が訪れる。日本の漫画をイタリア向けに翻訳・編集する会社から、翻訳の依頼を受けたのだ。

「そこはアニメや漫画のファンである友人たちが作った会社で。イタリアのオタク業界は狭いから、みんな知り合いだったのね。彼らから、漫画の翻訳家を探していると言われて、すぐに『やります!』って」

『攻殻機動隊』からキャリアがスタート

初めて翻訳したのはSF漫画『攻殻機動隊』。いきなり大作だ。未来の技術やサイバーカルチャーに関する言葉が多く、意味を調べるのに苦労したという。しかも、当時はインターネットも一般的でなかった。「大変すぎて、どれくらい時間がかかったか覚えていない」と振り返る詩文奈さんだが、翻訳への評判はよく、次々と依頼が舞い込むように。忙しくなり、漫画を描く時間はなくなっていったが、ごく自然に受け入れられたという。

「大好きな漫画を出版前に読めることに、すごく興奮したのを覚えてるわ。私は日本語の知識もあるし、文章を書くことも得意だから、漫画家ではなく、漫画翻訳家になることへ自然にシフトできましたね」

こうして翻訳家としてのキャリアをスタートさせたが、詩文奈さんの活動はそれだけにとどまらなかった。「私は何でも屋のDNAを継いでいるから」と自称するとおり、アメリカやイギリスに渡り、漫画翻訳と並行して、Webデザイン会社やIT企業、バイクメーカーの記念館などで働いた。翻訳をベースにしつつ、いろいろなことを経験したいという思いだった。

インターネットが普及し始め、世界のどこにいても翻訳ができるようになったことも大きかった。ロサンゼルスでは、詩文奈さんいわく“目つきの悪いスコットランド人”に一目ぼれし、長く滞在した。初めて東京に行ったのは、そんな1990年代半ばだった。

「もともと日本が激ラブで、ずっと行きたいと思っていたの。ロスからイタリアに戻るより日本のほうが近いから、今こそ夢をかなえようって。初めて見た日本の街並みは、漫画『うる星やつら』で見たままで、本当にあるんだ!って感動しました」

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