韓国「徴用工勝訴」が日本に与える巨大衝撃 戦後体制そのものを揺るがすパンドラの箱だ

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日韓請求権協定2条1項では、「両締約国は、両締約国及びその国民の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が、完全かつ最終的に解決された」ということが確認されています。

また、同2条3項には、「一方の締約国及びその国民の財産、権利及び利益であってこの協定の署名の日に他方の締約国の管轄の下にあるものに対する措置並びに一方の締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対するすべての請求権であって同日以前に生じた事由に基づくものに関しては、いかなる主張もすることができないものとする」と規定されており、韓国国民の日本に対する請求権が主張できないことが定められています。

加えて、この協定の合意議事録には、「完全かつ最終的に解決された財産、権利及び利益並びに請求権」の内容として、「被徴用韓国人の未収金、補償金及びその他の請求権の弁済請求」が明記されており、徴用工の補償請求が日韓請求権協定の枠内にあることは明らかです。

これらをまとめると、日本に対して請求権を有する徴用工は、日本政府や日本企業に賠償請求を行うことができないけれども、その代わりに韓国政府に対して請求することが認められるということになります。

実際に韓国政府は、日韓請求権協定の国内法的措置として「財産権措置法」を制定し、「韓国及び同国国民の日本国又はその国民に対する債権であって、同協定2条3項の『財産、権利及び利益』に該当するものは、昭和40(1965)年6月22日において消滅したものとする」と定めています。

個人の請求権は消滅していない?

ところが、国と個人はあくまで別人格です。国が請求権を放棄しても、それによって個人の請求権まで消滅しているのかどうかについては、長年の争点となっていました。何よりも、日本政府自身が、「日韓請求権協定ではあくまで外交保護権を放棄したものに過ぎず、個人の請求権は消滅していない」と答弁しています(1991年8月27日参議院予算委員会における柳井俊二条約局長の答弁)。

これは、仮に個人の請求権まで消滅してしまうと、朝鮮半島に資産を残してきた日本人に対して日本政府が補償を行わなければいけなくなってしまうので、「あなたの権利は消滅していないので、ぜひ韓国の制度で請求権を行使してくれ」と突き放すための理屈でした。

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