韓国「徴用工勝訴」が日本に与える巨大衝撃 戦後体制そのものを揺るがすパンドラの箱だ

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また、1990年からの10年間に韓国人が提訴した数十件の戦後補償訴訟においては、日本側が日韓請求権協定によって解決済みであるという抗弁を行っていませんでした。すなわち、この当時はまだ政府も、冒頭に示したように「完全かつ最終的に」解決しているとは考えていなかったということになります。

「サンフランシスコ条約枠組み論」の意味

2007年4月27日、日本の最高裁は、中国人を原告とする戦後補償訴訟において、「個人の請求権は消滅していないものの、裁判上訴求する権能を持たない」という結論を下しました。これは、1999年にアメリカで日本企業が訴えられた際に用いられた理論を参考にしたもので、「サンフランシスコ条約枠組み論」と呼ばれています。

この理論によって、「戦後補償に関しては、サンフランシスコ条約等の各条約によって解決済みである」という結論が確立されたわけです。したがって、日韓の戦後補償であれば、日韓請求権協定によって解決済みということとなります。

しかし、この理屈は従来の日本政府の見解を変更するものであり、法律構成として論理的であるとはいえず、どちらかというと政治的かつ曖昧な決着であったと言えるでしょう。とにかくいずれにせよ、日本では国外の戦争被害者が、日本政府や日本企業に請求を行うことが認められないという結論に至りました。これが今も政府が言う、「日韓請求権協定によって解決済みのはずである」という根拠です。

他方で、盧武鉉政権は2005年に民官共同委員会を開催して見解を示しています。ここでは、「従軍慰安婦、在サハリン韓国人、原爆被害者は請求権協定の範囲外」とする一方で、徴用工に関する請求権は依然として請求権協定の範囲内ということになっていました。これは現在でも韓国政府の公式見解です。なお、現大統領の文在寅は当時の政権メンバーでした。

日韓請求権協定を巡る解釈についてはさまざまな変遷をたどったとはいえ、この時点において、徴用工の補償に関する日韓両国政府の見解は一致していたといえます。革新派の盧武鉉政権でしたが、それでも現在と比べれば日韓関係はまだ良好でした。

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