28年隅田川沿いに暮らすホームレスの生活 路上で暮らす男女5人それぞれの経緯と思い

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きょうだいとはほとんど連絡をとっておらず、兄と姉はすでに他界しているという。

五輪をどう迎えるのか。

「2年後もいまのままですよ。でも、いま血圧が高くて薬を飲んでいてね。身体が動かなくなって、働けなくなったら、やっぱり生活保護かな。そんな先のことよりも、飼っていた猫が最近、いなくなってさ。探しているんだけど……」

と、永山さんはあくまでいまをどう生きるかに執着していた。

今度は言問橋を渡って、墨田区側の遊歩道へ。川に沿ってテントが7つあった。住人で千葉県出身の野平健さん(70・仮名)がこう説明する。

20年前からここにいますよ。月に1度ほど国か都か区の職員が来るけど、“テントを撤去しろ”とは言われないね。ただ、新しい人が来てテントを張ると、翌日に撤去されちゃうけれど」

野平さんは20代前半で結婚し、約2年で離婚。子どもはいない。かつては鉄鋼関係で働いたが、バブル崩壊とともに倒産して、この生活に。

生活保護は決まりごとがうるさいから嫌だね。空き缶集めの生活のほうが勝手気ままでいい。楽しみはたまにやる競馬。やっても1000円だけど、スポーツ新聞を買って予想すると1日中、楽しめる」

2年後もこの生活を続けていたいと強調した。

栄養失調で片目はほとんど見えない

近くの墨田区立隅田公園にはテントはない。しかし、ホームレスらしき男性が約20~30人おり、ベンチなどで過ごしていた。岩手県生まれの平賀誠一さん(79・仮名)は30年前から周辺で生活している。

「町工場でずっと溶接関係をやっていたけれど、急に仕事が減って、給料も安くなったのよ。それで知り合いがこのへんでホームレスをやっていたから、自分も会社を辞めてそうなった」(平賀さん)

私生活では、19歳のとき、近所の世話好きなおばさんに強引に結婚させられたが、夫婦仲は悪く、20代後半であえなく離婚。子どもは一姫二太郎だったが、2人が小学生のときに妻が引き取った。

「元妻と息子は10年前に死んじゃったよ。娘にはとっくに子どもがいるが、彼女は昔から自分には懐いていなかったから連絡はとっていない」

平賀さんの生活は月約8万円の厚生年金によって支えられている。日中は3、4か所の公園を巡り、1日に3合の酒を少しずつ飲みながら、ドン・キホーテで買った32円のおにぎりを1個だけ食べる毎日だ。

夜は公園の外側の遊歩道で寝る。雨天時はスカイツリーの近くの地下街で。

「こんな生活をしているから、病院の検査で栄養失調だと言われた。目もかなり悪くて、片目はほとんど見えない。生活保護は受けたくない。こっちには自由があるからね」

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