ホームレスを長年取材してきた筆者がルポでその実態に迫る本連載。第2回はスッとその生活に入り込む猫とホームレスの日常を描く。
2015年、東京・上野の上野恩賜公園を歩いていると、肉付きのよいトラ猫がポテポテと歩いていた。目で追いかけると、野宿生活者が建てたテントに向かっていった。
上野恩賜公園は一昔前、東京で最も野宿生活者が多い場所だった。
テントや小屋が立ち並び、まるで町のようになっていた。しかし規制が厳しくなり、現在はテントを建てている人はほとんどいない。そのテントは上野動物園の出口のあたりに建てられていた。少し外れにあるから、見逃されたのかもしれない。
テントの横に置かれたビーチチェアには、そのテントの主の爺さんが座っている。拾ってきた週刊誌を読みながらお酒を飲んでいる。
猫がいるから離れられない
さっきの猫はお爺さんの前に置かれた発泡スチロール製の箱に飛び乗るとグーグー寝始めた。お爺さんに話しかける。
「上野公園は今テントとか作っちゃいけねえの。ここも毎日のようにお役所の人が来てね、『福祉課に行け』『生活保護もらえ』って言われるよ。でもなあ人にはそれぞれ事情があるんだよ」
お爺さんは困ったような顔をした。おそるおそるどんな事情があるのか聞いてみた。
「ニャンちゃんがいんの。今は3匹いるんだよね。厳密には飼ってるってワケじゃないけど、それでもこの子らを置いて去るのは忍びないよ」
そういうと、目を細めてさっきのぽてっとした猫を眺めた。
お爺さんがテントを張って生活を始めたら、自然に野良猫が集まって来たという。多分、暖を求めたのだろう。
「もともとニャンちゃん6匹くらいいたの。でもこいつ(ぽて猫)が来て他の猫を追い出しちゃったんだよ。コイツはもともと飼い猫なんだよね」
確かに野良猫にしては毛並みが良い。
お爺さんがある朝目覚めたらテントの中でぽて猫は寝ていたという。
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