空前の「縄文ブーム」背後にある日本人の憂鬱 土偶や土器にときめく心理とは?

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振り返って私たちの暮らしはどうだろう。つねに他者からの評価に晒されている。会社でもそう。日常生活でもそう。「いいね」を獲得するために心をすり減らし、疲弊している人があまりにも多い。

人の目を気にし、顔色をうかがい、自分本来の姿で今を生きているのかさえもわからなくなる。ストレスは日々増大し、心は緊張しっぱなし。それでもお金を得るために、すごいねと言ってもらうために、悩みながらも頑張り続けるしかない。

対して縄文人には生きることへの迷いがない。そんな悠長なことは言っていられない現実が目の前にあるのだ。とにかく懸命に日々を暮らすしかない。

たったそれだけのことなのに、今の私たちにはとても難しい。生きている実感が薄く、それを埋め合わせようと「いいね」を求める。これは、ある意味でのユートピアがもたらした弊害とも言える。

漫然とした日々を過ごす私たちから見ると

ところがホモ・サピエンスは誕生したときから、そんな生温い環境で生きてきていない。つねに想像を絶する厳しい環境の中で生きることと向き合い、拡大してきた。そのDNAを私たちは持っている。

だからだろうか。漫然とした日々を過ごす私たちから見ると、縄文人たちは何と力強く生きているのかと感動すら覚える。人間というのは、本来、こういう生き物だったはずだと。

縄文時代の遺物の中に新たな美を見いだし「縄文の発見者」といわれる岡本太郎。彼は縄文土器に触れたときの感動を著作の中でこう記述した。「たんに日本、そして民族にたいしてだけでなく、もっと根源的な、人間にたいする感動と信頼感(略)」(『日本の伝統』岡本太郎 光文社・知恵の森文庫)。

彼が感じたように、この夏、縄文時代の遺物を目にして、その存在に触れた多くの人の心が揺さぶられた。人間とは何なのか。生きるとはどういうことなのか。私たちが忘れてしまったモノが、縄文人の中にあるのかもしれないと、一種の希望を見いだそうとしているのかもしれない。

次回からはそんな彼らの暮らしをひもといてみたい。

譽田 亜紀子 文筆家

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こんだ あきこ / Akiko Konda

岐阜県生まれ。京都女子大学卒業。奈良県橿原市の観音寺本馬遺跡の土偶との出会いをきっかけに、各地の博物館、遺跡を訪ね歩き、土偶、そして縄文時代の研究を重ねている。現在は、テレビ、ラジオ、トークイベントなどを通して、土偶や縄文時代の魅力を発信する活動も行っている。著書に『はじめての土偶』(2014年)、『にっぽん全国土偶手帖』(2015年、ともに世界文化社)、『ときめく縄文図鑑』(2016年、山と溪谷社)、『土偶のリアル』(2017年、山川出版社)、『知られざる縄文ライフ』(2017年、誠文堂新光社)、『土偶界へようこそ』(2017年、山川出版社)。近著に『縄文のヒミツ』(2018年、小学館)、『折る土偶ちゃん』(2018年、朝日出版社)がある。

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