また、ズレには、経営陣と現場のズレというのもあります。
まずは、どちらかというと長く歴史がある企業に多い、と感じる事例です。経営陣は未来の経営に対する危機感が強く、時代の変化に合わせられる強い人材を切実に求め、「挑戦心を持つ人材」「新しい価値観を持つ人材」などという人物像を掲げ、それに従って人事は求める人物像を公表しますが、現場はどちらかというと保守的で、挑戦心や新しい価値観より協調性や真面目さを重視する場合があります。そちらのほうがマネジメントしやすいイメージを持つからです。結局、現場の面接官が経営陣だったらほしいと思う人材を、選考で落としてしまうということがあるのです。
これは、経営陣が見ている視界と、現場が見ている視界の違いから生まれる「選考基準のズレ」から起こる悲劇です。
こうした問題が生じる企業の背景には、経営陣の考えが現場まで浸透しきれていないことや、今の現場にはいない新しい人材を採用したいのにもかかわらず、経営陣が採用に対する関わりを疎かにし、現場に採用を任せきってしまっていることが挙げられます。
こんなズレの例もあります。求める人物像にマッチした人材に出会い、「すごく優秀な人材が来た!」と自信を持って人事から推薦したのにも関わらず、経営陣から「確かに優秀だけど、うちの会社でこの優秀な人材を本当に使いきれるの? そんなに任せられることがある? 先輩社員と一緒に働いて失望して辞めない? オーバースペックのような気がするけど、どう?」などと言われて、不採用にしてしまうことがあります。
社員より優秀すぎる人材はつなぎとめられない
新卒採用で多くの人事は、企業に今いる人材より能力が1~3割増し程度の優秀人材を入れられれば、組織を活性化させて、組織力を向上させられると考えています。しかし同時に、その企業に今いる人材の能力を超える素質を持つ新卒を、選考中も入社後も、企業に長い間つなぎとめていくのが本当に難しいという悩みは、人事の間でも共有されます。
結局、掲げた求める人物像がすごく立派なものでも、その企業で長く活躍できるのは、今の企業の人材のレベルから大きく離れていない人だということは、企業側もわかっています。しかし、採用する人材レベルを落としたいわけではないので、あえてリアルに求めている人物像を公表するのではなく、より優秀な人物像を掲げ、最終的には、ちょっと背伸びをして届く範囲の人材を採用したいという思惑があったりするのです。よって、優秀すぎて選考されないというケースもあるのです。
3つめの「面接官の判断」ですが、結果的に、いくら求める人物像を固めても、なかなか面接官がその通りに判断してくれないのが実状です。面接官に選ばれるような社員の多くは、それなりのポジションにいる方なので、自分の考えや経験に自信を持っている方が多く、いくら人事が人物像を設定しても、独自の考えや経験を重視して判断することが多々あります。論理的に考えた選考基準が、その面接官の独自基準で一気に吹き飛ぶことがあるのです。
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