子どもを「ご褒美で釣る」親はなぜダメなのか 手っ取り早い効果の裏で密かに進行する弊害

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でも、このご褒美方式には弊害があります。そして、それはすぐに目に見えることはなくても、やがて確実に現れてくるものなのです。やがて「もっとたくさん欲しい」とか「何かくれないと勉強しない」と言い出す可能性はかなり高いです。また、2人の例のように「いくらくれる?」や「何くれる?」が口癖になってしまう可能性もあります。

いちばん深刻なのが、物事の認識や価値観に影響を与えることです。たとえば、お金や物で釣って勉強をさせていると、子どもは「勉強するのはお金や物をもらうため」という意識が強くなります。お金や物をもらうことが目的になってしまうのです。これでは、勉強そのものの面白さや価値を知ることはできません。それどころか無意識のうちに、「勉強とはご褒美がないとやれないくらい嫌なものなのだ」という認識ができてしまう可能性があります。

これでは、先々「勉強が好きになって自主的に勉強する」という状態に近づいていくのは難しくなるでしょう。その可能性をあらかじめ摘み取ってしまっているのですから。勉強だけでなく、同じようなことが生活習慣、お手伝いや仕事など、何事においても起こります。即効性はあっても、長期的にみると弊害のほうが大きいのです。

ご褒美をくれるのは嫌な仕事だから、という認識に

ご褒美方式の弊害については、さまざまな心理学の実験によっても明らかになっています。英国ハートフォードシャー大学教授リチャード・ワイズマンの著書『その科学があなたを変える』(文藝春秋)に、数々の興味深い実験が出ています。その中から2つを要約して紹介します。

心理学者エドワード・デシは、実験の参加者にソマというパズル(3次元のタングラムのようなもの)を30分間してもらいました。参加者の半数には、パズルを解いたら報酬(ご褒美)を出すと事前に約束し、もう半数には黙っていました。30分後、参加者全員に終了を告げてから、デシは「実験の第2部に必要な書類を取りに行ってくる」と言ってその場を離れました。

その後、密かに観察していると、ご褒美を約束された参加者の多くはパズルをやめてしまい、ご褒美を約束されなかった参加者たちはパズルをやり続ける割合が非常に高かったのです。デシによると、理由は、ご褒美を約束された参加者たちは、無意識のうちに「人がお金を払うのは、嫌な仕事をさせるときだけだ。このパズルでお金をくれるということは、これがつまらない仕事だからだ」と考えたからです。つまり、楽しい遊びのはずのパズルが、ご褒美によって嫌な仕事になってしまったのです。

デシの実験結果は非常に興味深いものだったので、その有効性を確かめるために、他の研究者たちが同様の実験を行いました。なかでも有名なのが、スタンフォード大学の心理学者マーク・レッパーがいくつかの学校で行った、子どもたちに絵を描かせる実験です。レッパーは、はじめに子どもたちの半数だけに「絵が描けたらメダルをあげる」と約束してから描かせました。そして、実験の結果はデシの実験とまったく同じになりました。

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