次は木村君の話です。木村君は井上君とは別の時に受け持った4年生でした。4月の一番初めの日に、新しい担任になった私のところに来て、「ぼく、テスト大好き。先生、テストいっぱいやってくれる?」と言いました。それで私は「この子は勉強ができてテストにも自信があるのだな」と思いました。
その後、実際にテストを何度かやったのですが、テストのたびに大喜びしていました。そんなある日、いつもは市販のテストを行っていたのですが、必要があって私の手作りテストで行ったことがありました。
テスト用紙を分け終わって、「さあ、テスト開始」というとき彼が言いました。「先生、このテスト、200点満点にしてくれませんか? いつも100点満点じゃつまらないし、200点満点のほうがやる気が出るんだけど。それに、点数がよくなってみんな自信がつくかもしれないし」「なるほど」「それに手作りなんだから、先生が点数を決められるんでしょ?」「それは面白いアイデアだね。点数の下に『/200』(200分の)と書けばいいわけだから、そうしようか」「やった~」。他の子たちも何だかうれしそうでした。というわけで、そのテストは200点満点ということになりました。次の日に返されたテストで、彼は見事に180点くらい取ったと思います。
「テストの点数の合計点=お金」だった
その後、1学期の終わり頃に、3日間で6枚くらいテストを行い、後日全部のテストをまとめて返しました。子どもたちはみんなそれぞれの結果に一喜一憂していましたが、木村君1人だけ変わったことをしていました。何やら紙に書いて計算していたのです。そっとのぞいてみると、なぜか6枚のテストの点を合計しているのです。計算の答えが出て、彼は「やったあ、全部で510点だ」と言いました。すると、隣の子が「じゃあ、510円もらえるんだね」と言いました。
私が「えっ、なに、それ?」と言うと、隣の子が「木村君のお母さんは、テストの点数でお金をくれるんだよ」と言いました。それを聞いて、木村君は「あ~、言っちゃった」と言いました。これで、私はいろいろなことに一気に思い当たりました。テストが異常に好きな理由も、テストを早く返してもらいたがる理由も。そして手作りテストで200点満点にしてと言った理由もわかりました。
この木村君の口癖は「何くれる?」でした。その後、体育の授業で初めて縄跳びのあや跳びができるようになったときにも、彼は「あや跳びができるようになったんだから、何かご褒美が欲しいな」と言いました。私が「できなかったあや跳びができるようになったこと自体がご褒美だよ。あや跳びできると楽しいでしょう。それを喜んで、大切にするといいよ」と答えると、彼は「お母さんに言って、何か買ってもらおうっと」と言いました。木村君の家では、何かがんばったり、いいことをしたりすると、ご褒美としてお金や物をもらえることになっていたのです。物心つく頃からずっとそうやって育てられたので、それが当たり前になっていたのです。
2つの例を挙げました。私は小学校の教師として数多くの親子を見てきましたが、お金や物で釣ろうとする親はけっこういます。なぜなら、即効性があるからです。ガミガミ叱らなくても手っ取り早い効果が出るので、つい手を出してしまうのです。
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