東大卒マジシャンが「人の心を動かす」ワケ 「100%準備」するから臨機応変になれる

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私がアドリブを使う理由は、マジックにはそう見せることに意味があるケースがあるからです。「準備してきていない」と宣言することで、マジックの説得力、すごみが増し、その後の展開にもプラスに寄与するわけです。また、アドリブを見せられた観客は、ショーがより“特別”なものになったと考えるようになります。

ビジネスでも、アドリブや演出的な振る舞いが成果に結び付くシチュエーションがあると思います。なぜなら、人は本質的に誰かに対して何かを与えたいと思っているからです。

心をつかむテクニック

マジックで言えば、観客としてマジシャンを刺激したからこそ、マジシャンからアドリブが生まれて心に残るマジックが見られた。そう思うからこそマジックの効果が増すわけです。

ですから、たとえば相手が何かを語り始めたとき、仮に自分が相手より詳しかったとしても絶対に腰を折ってはいけないと思います。また、相手の話を勝手に引き取り、たとえ知っていたとしても相手以上の知識をひけらかすことも逆効果です。自分が接待されている側ならまだしも、相手が教えてくれようとしている気持ちを裏切ってしまえば、気分が下がってしまうことは明白です。

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相手の情報を事前に調べ、頭に入れておくことは大切な準備ですが、その情報を相手が先に話し始めたからといって、「ああ、その話は知っています」と反応することが、必ずしもプラスになるとは限らないわけです。

もちろん、そこまで調べてくれたのかと喜んでくれる人もいるでしょうが、せっかく自分が話したかった内容をすでに相手が知っていたら、相手の「話してあげよう」という気分を台なしにしかねません。そして、気分が盛り上がってくれば、もしかしたら公になっている以上の情報を漏らしてくれて、それが重要な商機になるかもしれません。こうしたケースでは、「知らないふり」をあえて演じるスタンスでいるほうが、結果的に得るものが大きくなる可能性があります。

「えっ、そんなことがあったんですか?」とか、「その後はどうなったんですか?」と聞き返すことこそ、マジシャンのアドリブに相当するテクニックになると思います。その答えがわかっているなら、さらに深掘りしてみると、より心がつかめると思います。

入江田 翔太 マジシャン

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いりえだ しょうた / Shota Irieda

東京大学建築学科卒業後、プロマジシャンとして活動。ストーリー性の高いマジックを得意とし、2009年には、マジックの世界3大大会の1つであるS.A.M.大会のテーブルマジック部門で優勝する。

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