東大卒マジシャンが「人の心を動かす」ワケ 「100%準備」するから臨機応変になれる

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相手の緊張感が緩んだときがチャンスになる(写真:Shota Irieda)

マジシャンがタネを仕込むための動きを「シークレットムーブ」と呼びますが、これがバレてはマジックは成立しません。ただし、どのような状況でも絶対バレないシークレットムーブだけを使うのでは、実現できるマジックの幅が限られてしまいます。

観客の状況に応じて安全に仕込めるシークレットムーブのボーダーラインは変化しますが、最も観客の緊張感が緩み、見たこと、聞いたことを意識しなくなるのは、マジックが成功した、まさにそのときなのです。

この法則は、ビジネスにも大いに応用できるのではないかと思います。目標を達成した後の打ち上げ、ではありませんが、緊張が続いた後、ポジティブな形で緩和されたタイミングは、心のガードが下がり、本音で語り、挑戦的な、あるいは突飛で怒られてしまうかもしれないけれどぜひ一度してみたい主張が通りやすいタイミングと考えられます。

と同時に、シークレットムーブを見逃している「観客の視点」で考えると、成功した瞬間、緊張が解けたタイミングは、ミスを誘発しやすく、警戒心や注意力が失われやすいことを知っておいて損はないでしょう。

マジシャンは、途中の成功によって、自身の緊張を解いたりはしません。マジックが成功して、喜んでいるように見えても、それは演技です。最後の最後、見せたかったメインのマジックが決まり、ショーが場の趣旨にマッチする形で大団円を迎え、観客の笑顔と拍手から期待を超えられたと確信できたときに初めて喜びをかみしめるわけです。

人は本質的に「誰かに対して何かを与えたい」

人の心をとらえるための有効な方法として、マジシャンは演出的にアドリブを行います。

「100%準備して70~80%を出力する」と述べましたが、ここで言うアドリブも、100%準備したうえで「アドリブっぽく見える演技を適切なポイントで行う」ことを指しています。

「今日は“特別”にこんなマジックを見ていただきたいんです。予定にはなかったことなのですが……」

たとえば、このような偶然を装う一言を入れるだけで、同じマジックを見せるときでも、より心をつかみ、効果を増幅することができます。

当初から予定どおりにアドリブ風の演出を実行している場合もあれば、その場の雰囲気や観客の反応を基に、突発的に判断して行う本当のアドリブであることもあります。ただその場合も、普段からアドリブ風のパターンをいくつも用意していて、その場で適した形にアレンジしていると言うほうが正確かもしれません。

次ページより「特別」なものにする演出
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