前頁で述べた前者について言えば、10年国債金利3.2%程度という現在の水準は、経済成長率改善、インフレ率上昇を普通に反映していると筆者は考えている。
2018年のアメリカ実質GDP成長率は年率3%程度に高まり、またインフレ率が2%で安定しつつあるが、こうした経済状況を前提にすると、3%前後の長期金利水準が景気減速を招く可能性は低いと思われる。実際に、過去の景気後退局面の多くは、10年長期金利と名目GDPの伸びがほぼ同水準の時点で発生しており、現在の長期金利水準は依然として景気を押し上げる方向に作用している。
2018年におけるアメリカ長期金利の上昇は「FRB(アメリカ連邦準備制度理事会)による利上げが続く」との期待が高まったことが主因である。だが今回の長期金利上昇には別の側面があると考えられる。
つまり、アメリカ経済が2008年のリーマンショック後に長期停滞局面に入ったとの懸念を、多くの投資家が抱いていた。だが、その悲観論が修正されつつあることが、将来の経済成長期待を反映する長期金利上昇をもたらした可能性がある。つい夏場までは、長短金利差縮小が、将来の景気減速のシグナルと警戒する声が多かったが、アメリカ市場の慎重論の説得力は弱まっているとも言える。
米中貿易戦争の影響は「制御可能」
では2つめの貿易戦争の影響はどうか? 今月IMF(国際通貨基金)が発表した最新レポートによれば、これまで発動されているアメリカから中国に対する2000億ドルの関税によって、アメリカGDPへの影響(押し下げ効果)は今後3、4年にわたり0.1%ポイント程度とされている。
経済モデルによる試算は前提条件によって影響度合いが変わるが、輸出入依存度が高くないアメリカ経済にとって、関税引き上げが、経済全体を失速させる可能性は低い。もちろん、中国への貿易依存度が高いアメリカ企業は影響を受けるが、経済全体でみれば、金融財政政策による対応によって制御できるネガティブインパクトになる。
これらを踏まえると、10月のアメリカ株の急落が、アメリカ経済の失速や株式市場の長期下落につながるリスクシナリオとなる可能性は低いだろう。
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