また、何百人もの人に面会し、ほとんどの場合「No」を言い続けるのにはたいへんな根気がいる。「Yes」の場合でも、その7割は損をして、2割はトントン程度。10倍や20倍になる確率はたった10%だ。こんな勝負ができるのも、複数取材をして有用な情報が1つも得られないといったジャーナリストの経験があるから。自分のキャリアをメディアで始められたのはよかった。
──評価すべきはあくまで創業者であって、製品ではない?
スタートアップ企業において、創業者とその企業は不可分な存在だ。ライドシェア大手のウーバーはトラビス・カラニック氏であり、逆もまた然りだ。だから、投資先を決める際に重要なのは創業者が成功しそうかどうか。仮に投資先の創業者が別の会社を作れば、私は再び投資するだろう。それに対して、未来を予知できないかぎり製品や市場を評価するのは難しい。
ウーバーのカラニック氏を評価した理由
──そのウーバーは、今や時価総額7兆円です。カラニック氏のどこを評価したのでしょう。
彼は非常に頭がよく、独自の世界観を持っている。こんなエピソードがある。ある土曜日の夜、彼と電話でこんな話をした。当時、メディアやSNSではウーバーの利用料金がその時々で大きく変動することが物議を醸しており、私は彼に「なぜ皆こんなに怒っていると思う?」と質問をした。
するとトラビスはこう答えた。「怒られる筋合いはない。クリスマス休暇に飛行機やホテルの料金が高騰しているだろう。それと同じだ。これまでアメリカでは年末に営業しているタクシーが少なかったが、それは家族との時間を犠牲にしてまで仕事をするモチベーションがないからだ。変動料金にすれば、仕事をしないで家族と過ごすか、家族から不平不満を言われる代わりにいつもの5倍稼ぐか、選ぶことができる」と。
理にかなった説明だと思った私は、これをブログに書くようトラビスに勧めた。以来、値段で文句を言われることはなくなった。
──助言も重要ですね。
私の仕事は、製品やサービスのユーザーから見た疑問点を創業者に伝え、創業者の意思決定を手助けすること。助言とは少し違う。創業者は孤独でつらいときもある。寄り添えるのがいいエンジェル投資家だ。
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