株急落よりも怖い新興国のドル建て債務 ドル高・ドル金利上昇で返済が苦しくなる

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9月下旬以降、話題となっているようにドルの調達コスト(ベーシス・コスト:円を元手にドルを調達した時の上乗せコスト、ドルの需要が強いことで生じる)は急騰しており、ドル金利も上昇している。少なくとも足元では、借り入れた時ほど簡単に返済原資としてのドルを獲得するのは難しいはずである。

もちろん、一口に「新興国におけるドル建て債務」とい言っても、国やセクターによって、そのあり方はさまざまである。たとえば企業部門の借り入れが多いメキシコのようなケースもあれば、マレーシアのように銀行ではない金融部門(non-bank financial)の借り入れが牽引しているケースもある。しかし、そこは重要ではあるまい。いずれにせよ調達したドルを国内の投資機会に充てていたのだとすれば、そこからの収益が停滞すれば返済原資に窮する状況に陥るし、借り換えようとしても、ドル金利やドルの上昇がやはり重荷となる。

このような国際金融情勢を踏まえた上で、貿易戦争の激化や中立金利を超える利上げ路線をどう評価するのかという問題意識が、中長期的には非常に重要なのである。

「アメリカが耐えられるか」だけでは不十分

FRBの利上げやバランスシートの持続可能性を論じる際、どうしても「アメリカが耐えられるか」ということばかりに視点が向かいがちである。もちろん、金融政策は国内目的で運営するというのが経済外交における紳士協定なので、本来はそれでも構わない。だが、今年に入ってからの新興国市場の混乱を見るにつけ、こと基軸通貨国においては国際金融情勢への配慮も重要と思わざるを得ない。それだけFRBの挙動は乱気流を生みやすい。

また、新興国の政策対応にも改善の余地はある。「たら・れば」の話になってしまうが、仮にFRBが量的緩和(QE)を拡張している局面で、新興国側が資本規制をしていれば、今年に入ってから経験しているような混乱はおそらく起きていなかった。流入が限定されれば流出も限定されるのは、当然の話である。

2017年秋にIMF(国際通貨基金)が公表した「国際金融安定性報告(GFSR)」では2010年以降、新興国に流入した資金の9割弱が米国の金融緩和に起因するものであったという分析もある(この点は過去の寄稿『トルコ以外の新興国も資本流出が本格化する』に掲載の図表をご参照いただきたい)。今まさに緩和を巻き戻している最中なのだから、新興国からの資本流出は不可避と考えざるを得ない。

FRBの政策を見るうえで、日々話題となる利上げやこれに伴う市況(株・為替・金利など)の変動は確かに重要である。だが、それがどのように世界へ波及していくのかという視点が、もっと重要である。新興国のドル建て債務は半ばQEにより積み上げられたといっても過言ではない以上、FRBは無関心というわけにはいかないのではないか。株急落と同じくらい恐ろしいのは複数の新興国経済が同時多発的に失速し、それが世界経済全体の体力を一気に弱める展開である。

※本記事は個人的見解であり、所属組織とは無関係です

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学卒業後、日本貿易振興機構(JETRO)入構。日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局(ベルギー)に出向し、「EU経済見通し」の作成やユーロ導入10周年記念論文の執筆などに携わった。2008年10月から、みずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)で為替市場を中心とする経済・金融分析を担当。著書に『欧州リスク―日本化・円化・日銀化』(2014年、東洋経済新報社)、『ECB 欧州中央銀行:組織、戦略から銀行監督まで』(2017年、東洋経済新報社)。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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