イタリア政局をめぐる金融波乱は終わらない 加盟国の実態に適合しないEUの硬直的な政策

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イタリアのジュゼッペ・コンテ首相は「イタリアがユーロを放棄することは不可能だ」と主張し、ユーロ懐疑派の説得に躍起だ(写真:ロイター/Alessandro Bianchi)

案の定、10月に入ってからイタリア政局の混乱が続いている。経緯を整理しておくと、9月27日、極左政党「五つ星運動」と極右政党「同盟」の2党が率いるイタリアのポピュリスト政権が2019~21年の経済財政計画(DEF)を発表した。

DEFは今後3年間の財政運営を規定する計画であり、これを土台として財務省が2019年度予算案を編成することになる。この予算案の欧州委員会への提出期限が市場で注目されている「10月15日」である。欧州委員会を無事通過すればイタリア議会における採決へ進むことができる。

ここで欧州委員会への提出を挟むのは、安定・成長協定(SGP)を筆頭とするEU(欧州連合)の財政ルールに抵触していないかどうか、査定を受けるためで、差し戻しの場合は2週間以内に行われることになっている。予算案に対する欧州委員会の意見表明は11月末までに行われ、この意見表明を元にイタリア議会は予算案を議決することになる。この期限が年末である。

現在正式に発表されているDEFでは、2019~2021年度までの財政赤字は対GDP(国内総生産)でマイナス2.4%で横ばいとされているが、イタリア政府の財政規律派ジョヴァンニ・トリア財務相はマイナス1.6%を主張していたとされる。本稿執筆時点では、イタリア政府が欧州委員会に譲歩して、財政赤字をマイナス2%程度まで圧縮する可能性を、地元紙が報じている。だが、正式に表明されたものではなく、また、ここでの議論の大勢には影響しないので、とりあえずマイナス2.4%で議論を進める。

ポピュリスト政権の財政計画も特に異常ではない

こうした財政計画は拡張財政路線を共有する極右・極左政党の幹部に抗しきれなかった結果であり、結果としてトリア財務相の進退を案ずる声まで出始めている。しかし、EU(欧州連合)の財政ルールとして最も有名なSGP(the Stability and Growth Pact)の求める基準はマイナス3%以下であり、マイナス2.4%はこれを遵守していることになる。ポピュリスト政権という触れ込みにしては常識的な数字に収まったという印象もある。

しかし、欧州委員会は2013年に発効した新財政協定の下、加盟国に構造的財政赤字(財政赤字から循環的要因、一時的要因を取り除いたもの)の中期的な均衡(対GDPでマイナス0.5%以内)も要求している。欧州委員会は2019年度のイタリアの財政赤字に関しマイナス1.7%を想定しているが、これは構造的財政収支の悪化を回避し、いずれ改善を目指すことも視野に入れた数字である。

ここでイタリアの構造的財政収支に係る欧州委員会予想を見ると、2018年度マイナス1.7%、2019年度マイナス2.0%となっている。つまり、「財政赤字がマイナス1.7%であっても構造的財政収支は均衡に向かわず悪化する」のが実情であり、これをさらに上回るマイナス2.4%など論外というのが欧州委員会の言い分ということになる。

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