イタリア政局をめぐる金融波乱は終わらない 加盟国の実態に適合しないEUの硬直的な政策

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このような経緯を踏まえれば、拡張財政路線を共通コンセプトとする極右・極左政党が連立を組むに至ったのは当然の帰結である。その共通コンセプトを欧州委員会がルールで押さえようとしているのが現状なのである。今後、ポピュリスト政権がそのルールを無視し罰金を受け入れて、イタリア議会が欧州委員会の承認しない新年度予算案を編成することは、手続き的には可能である。EUは強制的に加盟国の予算編成に介入して止める手段は持っていない。

もちろん、最終的には、いつもどおりに「両者の間を取って妥協する」という手法で現状打開を図るというのが、メインシナリオとなるだろう。例えば財政赤字で言えば、EUがマイナス1.7%、イタリア政府がマイナス2.4%と求めているのだとすれば、巷間伝えられるマイナス2.0%程度で合意を形成し、両者の顔を立てるというのはいかにもありそうな展開である。しかし、つねに間を取れば解決したと考えるのはEUの悪いところだ。政治的な妥協にすぎず、経済や財政にとって意味のある解決ではない。

強行突破シナリオをめぐって、もうひと波乱

今回のイタリア騒動を受けて、われわれがあらためて向き合うべき論点はEUの硬直的な政策思想だろう。

債務危機後、南欧諸国が欧州委員会から緊縮路線を強いられてもハードランディングすることがなかったのは、その間にECBがマイナス金利政策やQEで援護射撃していたからである。だが、現在に目をやれば、QEは今月から縮小が始まり年内には終了する。1年後には利上げすら視野に入る。こうして財政政策に加え金融政策も引き締めるというポリシーミックスは景気過熱防止のそれであり、とてもイタリアが求めているような路線ではないことは明らかである。

少なくとも財政統合が未完である限り、ある程度は(例えばSGPの基準が遵守される程度においては)大目に見る姿勢などが必要ではないだろうか。ドイツがEU域内のほかの国のために身銭を切るつもりがないのであれば、せめてその程度の裁量を認めなければ、各所で民意がポピュリストを支持する風潮につながるだけに思われる。目先に関しては、イタリアのポピュリスト政権による拡張財政路線に拘泥した強行突破シナリオをめぐって、再び波乱のあることを覚悟したほうがよいだろう。

※本記事は個人的見解であり、所属組織とは無関係です

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社、2024年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、2022年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、2021年12月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、2017年11月)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月)、など。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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