「信用審査・AI・融資」5年後あなたも体験する 金融業務のみならず経済・社会を変える

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また、データを渡せばスコアが高くなる傾向があるので、利用者は積極的に個人データを渡しているといわれます。人々は信頼を失わないように心掛けるので、人間の質を高めるとされます。また、スコアが高いと、シェア自転車の保証金が無料になったり、海外旅行時にWi‐Fiルータを無料で借りられたりなどの特典も与えられます。

芝麻信用が従来のスコアリングの問題をどの程度克服しているかはわかりませんが、電子マネーの情報が加わっているのは、これまでの信用スコアとの大きな違いです。

消費者金融の分野でも、個人の信用履歴に応じた融資が可能になりつつあります。「趣店(クディアン)」というスタートアップ企業は、ビッグデータを利用することによって、個人の信用を識別する消費者金融を開発しました。同社は、2017年のフィンテック100で世界第3位になっています。

Q:日本におけるAI融資審査の実例にはどんなものがありますか?

まず、個人向けとして、次のものがあります。

ソフトバンクとみずほ銀行の合弁会社J.Scoreが、人工知能(AI)を活用した融資サービス「AIスコア・レンディング」を開始しました。18項目の簡単な質問に答えるだけで、スコアを算出します。

住信SBIネット銀行は、ローン審査に人工知能を活用する実証実験を開始しました。

融資希望者が質問に回答していくことによって、融資の限度額や利率が決定されます。質問項目は、年収、職業、趣味、買い物の仕方などです。

中小企業向け融資では、みずほフィナンシャルグループが、AIを使って企業の返済能力を自動的に審査する中小企業向け新型融資を、2018年中にも始めます。このほか、新生銀行や地銀7行によるものなどがあります。

Q:AIによる審査技術が、社会に新しい問題をもたらすことはないでしょうか?

スコアリングは、秘密にされている情報を使うのではなく、オープンにされている情報を大量に集めて分析します。だから合法です。

しかし、問題もあります。個人信用情報について懸念されるのは、それが融資の際の評価に用いられるだけでなく、ほかのさまざまな用途に用いられることです。たとえば、信用度が低いと、航空券を買えないといったことが中国では発生しているようです。

そのうち、雇用の際の評価に用いられるようなことにもなりかねません。こうして、この点数が個人の一般的な評価として社会的に通用することになってしまうでしょう。さまざまな機会にスコアが用いられ、人々の生活に支障が出る危険があります。

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さらに危険な面もあります。プライバシーが侵されるリスクです。全体主義国家では、反政府活動の取り締まりに使われる危険もあります。

良いものが優遇され、悪いものが排除されるとしても、問題は、「良いものとは何か」という定義です。「権力者にとって都合の良いものが良いものだ」とされる危険は、大いにあります。そうなれば、究極の全体主義国家が実現します。

国中に張り巡らされた監視ネットワークから収集した大量のデータを、権力者が用いることがすでに可能になっています。「独裁者は、政権転覆を計画している者を敏速に把握し、居場所を特定し、彼らが行動を起こす前に投獄できるだろう」との指摘もあります。

野口 悠紀雄 一橋大学名誉教授

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のぐち ゆきお / Yukio Noguchi

1940年、東京に生まれる。 1963年、東京大学工学部卒業。 1964年、大蔵省入省。 1972年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。 一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、一橋大学名誉教授。専門は日本経済論。『中国が世界を攪乱する』(東洋経済新報社 )、『書くことについて』(角川新書)、『リープフロッグ』逆転勝ちの経済学(文春新書)など著書多数。

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