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45歳で復活した男が見せたボクシングの本質 沢木耕太郎「拳の記憶」より

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フォアマンは、その試合で、完璧な「物語」を見せてくれただけでなく、かつての名トレーナー、エディ・タウンゼントが口にしていた、ボクシングのもうひとつの本質をも示してくれたのだ。

エディ・タウンゼントは、ボクシングとは何かという私の問いに対して、「スタンド・アンド・ファイトだ」と答えた。踏みとどまって戦うことだ、と。フォアマンは、まさに、踏みとどまって戦うことで、ボクシングとは何かということを、私たちに示してくれたのだ。

拳は単に記憶だけではなく、夢でもある

だが、残念なことに、それ以後、私は私の心を熱くしてくれるようなボクシングの試合に遭遇していない。大和武士が不本意なかたちでリングを去ってからというもの、前のめりになるような姿勢でボクシングを見ることがなくなってしまった。

しかし、6年前、カシアス内藤が末期ガンの宣告を受けたことを契機にして、私たちが多くの人の助けを借りて作ることのできたボクシング・ジムから、ようやく有望なボクサーが誕生しはじめた。

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とりわけ、去年の12月に全日本の新人王に輝いた林欽貴と、内藤の長男で高校三冠に輝いた内藤律樹の2人が、もしかしたら、私たちの夢を叶えてくれる存在になってくれるかもしれない。私たちの夢、それは内藤のジムを作るために1万円ずつ寄付してくれた多くの人たちを、ジムにとって初めてのタイトルマッチに招待するという夢だ。

それを叶えてくれるのは、林欽貴の右の拳か、内藤律樹の左の拳か。もちろん、夢は夢で終わるかもしれない。

しかし、少なくとも、いまの私には、「拳」は単に「記憶」だけでなく、「未来」への夢をはらんだものとしても存在しているのだ。多くの現役ボクサーと同じく、あるいは彼らを熱い視線で見つめている多くのボクシング・ファンと同じく。

(2011年5月)

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