アリババ馬雲氏「引退宣言」は用意周到だった 突然の発表の裏にある「事業承継計画」

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馬氏の英語力もコミュニケーション能力を生かして磨かれたものだ。出身地の杭州市は「上有天堂,下有蘇杭」(空に天国あれば、地に蘇州・杭州あり)と言われるほどの風景明媚な観光地。多くの外国人観光客が訪れる。そこで英語の無料ガイドを買って出て、語学力を鍛えたのだとか。

大学でも英語を専攻した馬氏は、ぎりぎりの補欠合格だったにもかかわらず、学生会主席を務めるなど優秀学生街道をまっしぐら。卒業後には同級生の中で唯一、大学教師として「分配」(国家が人民の職業を決定する制度。すでに廃止された)された。

「中小企業を支援する」というポリシー

コミュニケーション能力と英語力に加えて、馬氏の強みとなるのがビジョン、ポリシーだろう。第一に「インターネット」への確信だ。1995年、英国出張中にインターネットなるものの存在を知った馬氏は、帰国後すぐにウェブサイト作成代行サービスを開始する。中国にインターネットサービスが始まるよりも先だった。エンジニアではない馬氏だが、インターネットを一目見た瞬間に世界を変える技術だと確信したという。

2018年2月、平昌五輪アリババパビリオンのオープニングセレモニー。馬雲氏は中国ビジネス界の「顔」でもある(写真:筆者提供)

第二に「中小企業を支援する」「天下に困難な商売なし」というポリシーの一貫性だ。アリババは中小零細企業がネットショップを開けるモール型サービスからスタートした。その後のフィンテックや物流においても、中小企業をサポートするプラットフォームというポリシーは継続されている。

昨年開催されたITの未来を語るイベント、天下網商大会で、馬氏は「5つの新」コンセプトを打ち出した。新小売、新製造、新金融、新技術、新エネルギーだが、ここでも中小企業支援の姿勢は明確で、中小企業であっても、クラウドとデータ経済を活用した新小売、グローバルサプライチェーンを活用した新製造、そして銀行を経由しない新金融などを享受できる世界を作ると明言していた。

巨大帝国となったアリババグループだが、ECと中小企業支援というコアにぶれはない。馬氏のビジョンとポリシーがその中核を担っている。

この希有な才能がなぜ54歳という若さで引退を表明したのか。これにも馬氏のビジョンがかかわっている。

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