「英文法の誤り」と「知的レベル」の密接な関係

トランプ大統領の英語も間違いだらけ

「to clearly explain」の正しい表現は「to explain clearly」である(to+動詞は文法的単位なのでほかの語を割り込ませてはならない)。

「the person I spoke to」は「the person to whom I spoke」と表現するのが正しい(前置詞の後ろには名詞か代名詞が必要なので末尾においてはならない)。

「Who do you trust?」は、文法的には「Whom do you trust?」が正しい(trustの目的語なので目的格を使う)。

「less trees」は間違いであり、「fewer trees」が正しい表現である(可算名詞なのでfewerを使う)。

「I don’t have nothing.」は「I don’t have anything.」(否定の否定は肯定なので、否定語は一語でよい)が正用とされる。

【9月13日11時55分追記】記事初出時、「the person I spoke to」と「the person to whom I spoke」の正誤を逆に表記していましたので修正しました。

マイナス×マイナス=プラス

このような英語の規則の多くは、18世紀後半に人工的に作られたものである。時代思潮は17世紀から続く啓蒙の時代であり、学者や知識人たちはさまざまな事象を人間の理性で理解し説明しようとした。言語についてもしかりで、一般的に広まっているかどうかではなく、文法の理屈に合うかどうかを正誤判断の基準とした。

象徴的なのは二重否定である。英語は誕生以来、文中に否定語がいくつあっても文全体の意味は否定のままである。ところが、18世紀の規範文法家は「マイナス×マイナス=プラス」という数学の考えに基づき、「~でないことはない=~である」という理屈を持ち出し、規則化した。

では、なぜそのような非日常的な規則が、今でも幅を利かせているのだろうか。それは、産業革命の結果として誕生した中産階級の身分証明となったからである。

特に19世紀前半は、イギリスでもアメリカでも、中流家庭の子弟たちはこぞって規範文法を学んだ。その結果、文章や公の場で「正しい」とされる文法・語法を使えるか否かで、教育程度や家庭環境のみならず、道徳や人間性まで判断されるようになった。

端的な例は第16代合衆国大統領のエイブラハム・リンカーンである。彼は奴隷解放やゲティスバーグ宣言で歴史に名を残したが、生まれは貧しく、正式な教育はほとんど受けていない。ただ、社会的な志と野心はあった。

そこで20歳の頃に下宿していた小学校の先生に相談したところ、「社会的にきちんと見えたり、政治家として出世するには、文法を徹底的に学ぶ必要がある」と言われた。そこでリンカーンは規範文法を猛勉強し、その後は地方議員や弁護士となり、最終的には大統領にまで上り詰めた。

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