「英文法の誤り」と「知的レベル」の密接な関係 トランプ大統領の英語も間違いだらけ

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このように、「規範文法=中産階級=社会的に有用=品行方正」という構図が英語圏では200年前に出来上がり、今日まで続く。ここに英語の「ら抜き言葉」の恐ろしさがある。

イギリス・オックスフォード大学の社会言語学者デボラ・キャメロンは、これを「言葉の衛生」と名付けた。規範文法違反に対する反感は、不潔なものに対する生理的嫌悪感と同じという意味である。

かくして、現代の英米社会では、規範文法と能力や道徳を結び付ける言説があちこちに現れる。かつてイギリスでフーリガン(サッカーの暴力的ファン)が問題になったとき、ある大物政治家は「文法を教えないからああなる」と言い放った。

英語圏ではネイティブスピーカー用の「規範文法」というのはひとつの出版ジャンルで、ある本には「単純な文法間違いをすると実際よりも知的に劣ると見られ、友情や仕事にも影響しうる」との脅しまで登場する。

アメリカでは歴代大統領が犯した「文法間違い」のあら捜しも定番である。試しにTrump(ドナルド・トランプ大統領)とgrammar(文法)でネット検索すると、いくつものサイトが出てくる。

そのうちの「ドナルド・トランプの文法・統語の誤り (Donald Trump’s grammar, syntax errors)」という記事では、次のような「間違い」を「最もイラっとする例」として糾弾している。

“I’m not unproud.” 自身のツイッターについて述べたものだが、「誇りに思っている」のか「誇りに思っていない」のか不明なので、二重否定を使わずI’m proud.かI’m not proud.にすべきである。
“Her and Obama created this huge vacuum.” 前政権のオバマ大統領とクリントン国務長官が巨大な空白地帯を作ったのでイスラム国が台頭したと非難したものだが、主語なので主格の代名詞を使いShe and Obamaにすべきである。
“No matter how good I do on something, they'll never write good.”「自分がどんなによいことをしても、メディアはよく書かない」というお決まりのマスコミ批判であるが、動詞を修飾するので形容詞ではなく副詞を用い、how well I doおよびwrite wellにすべきである。

これらはいずれも話し言葉ではよく見られる用例だが、規範文法としては「ら抜き言葉」の最たるもので、少なくとも英語国の大統領が公の発言で使うものではないとされる。

ビジネスでも規範文法基準が適用される

ひるがえって、日本人は英文法とどのようにつき合えばよいのだろうか。それには現在の英語力が大いに関係してくる。

まず、英検2級程度までならば、語順や時制のような意味に大きくかかわる文法項目を習得すべきである。英検準1級程度ならば、言葉の丁寧さ、話し言葉と書き言葉の使い分け、冠詞のような細かい正確さに磨きをかけるとよいだろう。

問題は英検1級以上の上級者である。語彙も文法的正確さも流暢さもあるので、留学時の志願書やエッセイ、ビジネスでのメールやプレゼンには、ネイティブスピーカーの規範文法基準が適用されることもある。

少なくとも、場をわきまえた英語使用ができて、得をすることは多々あっても、損をすることは決してない。

池田 真 上智大学教授

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いけだ まこと / Makoto Ikeda

上智大学文学部英文学科教授、文学部英文学科長。早稲田大学政治経済学部経済学科、上智大学文学部英文学科卒業。上智大学大学院文学研究科英米文学専攻(修士号・博士号)、ロンドン大学キングズカレッジ大学院英語教育・応用言語学専攻(修士号)。上智大学のほか、桐朋学園大学、京都大学大学院、早稲田大学、国際基督教大学で非常勤講師を務める。英語学(特に英文法史)と英語教育(特にCLIL=内容言語統合型学習)を専門とする。日本CLIL教育学会副会長。

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