「女子」と「おじさん」が示す日本人の思考停止 意味もなく濫用されすぎていないか

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山田:そういう企画を考えてしまう女の人って、これまで上司とか周りがおじさんばっかりで、その人たちに刺さらないと企画が通らない、みたいな中で仕事してきたのかも。想像ですが。

スー:そうかもしれません。だけど今同じことが、おじさんにも起こっていて。この間『AERA』の連載でも書いたんですけど、「おじさん」って何でも言っていい対象として扱われすぎだと思うんです。たとえばおじさん臭とか。臭いおじさんもいるにはいるんでしょうけど、おじさん臭を消すための商品CMで公然と「おじさんは臭い」と十把一絡げでやってるじゃないですか。

女の人を対象にあれをやったら炎上しますよね。おじさん臭を解消するアイテムだとしても、もうちょっと言い方あるんじゃないかなーと思います。これが続くと、おじさんがおじさんを落とす企画書というのが出てくるようになりますよね。それはどうなのかなと思うんですよ。

自分が女子かどうか自分で決められない

山田:おっさんのほうも、「おじさん」っていうワードをちょっと便利使いしてるときがありますよね。

スー:そうですね。でもそれ、考えたほうがいいと思うんです。いわゆる「女子」って言葉はある時から濫用され始めて、女の人が「自分が女子かどうか」を自分で決められなくなったんです。人から「お前ら女子じゃない」と言われたら女子じゃなくなる一方で、居酒屋の手頃なコースは「女子会プラン」と名付けられている。相手の都合で勝手に決められてしまうんです。結局「女子」という属性が自分からどんどん離れていって、もみくちゃにされて、企業が私たちに財布を開かせるためにその言葉を使うだけになってしまった。

山田:まあどちらかと言えば、財布開かせる側なんでね……僕ら。

スー:いやいや(笑)。それからいろんな人が抵抗して、だいぶ「女子」って言葉が女性の手元に戻ってきたとは思うんですけど、取り戻すのにすごい時間かかったんですよ。だからおじさんも早めに「おじさん」って言葉を自分たちの手に取り戻さないと、と思います。

山田:今は、「きょうはじいじの日です」みたいなのもありますからね(笑)。

スー:きついのは、自分の属性を自分で決められずに他者から勝手に決められてしまうことだと思うんです。自分は女子って言ってないのに「女子と思ってんだろ、調子に乗ってんじゃねえ」と言われたり。道の端を歩いてたのに、「真ん中を歩いてんじゃねえ」って突き飛ばされるようなところがありました。

でも多分、おじさんも自分たちで「おじさんは恥ずかしくない」っていうふうに是正していかないと、おじさんだから道の端を歩けとか、「あなたはおじさんのままでいいんですか」って脅しの道具に使われる。おじさんをうまく乗りこなせる人ばっかりじゃないと思うんですよね。

山田:結局、言い方は悪いですけど、コピーライター的な人たちの飯のタネにすぎない部分もあるのかもと。

スー:そうそう。「脱おじさんプラン」とかいうのが出始めたら、私は危険信号だと思ってます。居酒屋の「女子会プラン」と同じですよね。「始まったな、消費」という。女性の地位が上がった結果、男性の地位が下がったのではダメなんですよ。それには理由があってですね。

山田:聞かせてください。

スー:おじさんって呼ばれてもダメージがない人は、やっぱり社会的地位のある人だと思うんです。一方でおじさんと言われることでグサッときたり、何かしら生活に支障を来す人たちっていうのは、弱者とまでは言わないけれど社会的強者ではないと思うんです。そうなると、虐げられた人が次に攻撃するのは、自分を虐げた相手ではなく女と子どもなんですよ。自分より弱い相手。

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