「時価」で売るプロ野球チケットは浸透するか 価格コントロールが球団経営にもたらす効果

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費用削減策は、入場者数予測に基づいた飲食物材料の仕入数の抑制など「変動費」に限られる。プロ野球は固定費の割合が高いため、入場者数の多寡に関係なく、1試合当たりの総費用(=固定費+変動費)に大きな違いは生じないということがいえるだろう。

1試合当たりの総費用が毎試合ほぼ一定である場合、入場料収入が大きくなるほど、利益は増える。つまり、入場者数を増やすことが入場料収入増加のカギを握る。しかし、夏休み期間中は別としても、それ以外の期間は平日の入場者数が少なくなることは避けにくい。

そこで、人気の対戦カードやイベント開催時以外を除く平日の料金を引き下げることで入場者数を増やそうというわけだ。チケット料金を引き下げても、より多くのチケットを販売できれば、入場料収入の増加につながる。

球場の販売座席は売れ残ったとしても在庫として保有することができず、売れ残った座席から得られる収入はもちろん0円。球団の立場では、売れ残りそうな座席を低価格でも販売できれば収入となるのだ。

反対に人気の対戦カードやイベント開催時は入場者数が増えて、チケットの販売数以上のファンがチケット購入を希望する。つまり、需要(購入希望者数)が供給(販売数)を上回る状態となる。この場合、チケット料金を引き上げれば、購入希望者数を抑制したうえで、入場料収入を増加させることができる。

「時価」で売るチケットはどこまで浸透するか

プロ野球におけるチケット料金の変動制拡大の主な効果は、入場料収入の最大化とチケット販売数の適切なコントロールによる新たな販売機会の創出の2点にまとめることができる。

現時点では、完全な「時価」を導入しているのは楽天野球団のみであるが、インターネットの普及やAIの進化がプロ野球でのチケット料金の「時価」導入をさらに後押しする展開もありうる。

また、多くの球団は座席種別ごとの料金区分を設けているが、同じ座席種別でも通路側と奥側の座席では快適性は大きく異なる。したがって、その価値も異なるはずだ。奥側座席に比べて出入りが容易で快適性が高い通路側の座席を高額に設定することで、さらに入場料収入の増加につなげることもできる。

入場料収入の増加によって手にした利益を球団の持続的運営のための原資として活用するとともに、より快適な観戦環境整備に還元することが、新たなファンの獲得とリピーターの増加につながるといえるだろう。

大塚 良治 江戸川大学准教授

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おおつか りょうじ / Ryouji Ohtsuka

1974年生まれ。博士(経営学)。総合旅行業務取扱管理者試験、運行管理者試験(旅客)(貨物)、インバウンド実務主任者認定試験合格。広島国際大学講師等を経て現職。明治大学兼任講師、および東京成徳大学非常勤講師を兼務。特定非営利活動法人四日市の交通と街づくりを考える会創設メンバーとして、近鉄(現・四日市あすなろう鉄道)内部・ 八王子線の存続案の策定と行政への意見書提出を経験し、現在は専務理事。著書に『「通勤ライナー」 はなぜ乗客にも鉄道会社にも得なのか』(東京堂出版)。

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