医師は誰に対しても公平・公正であるべきか 東京医大ショックが問う、医学部入試の本質

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医学部入試で課題文を読ませ、日記としてまとめさせるという出題は、意表をつく出題であり、これまで記憶にない。その意味では、出題者がその日をふり返り、その日の経験をつづることを、日々されていた方なのかもしれない。ここでは日記の効用については触れないが、日記を1度も書いたことのない者には、自らの感情を吐露し記録するこの行為は、難儀だったかもしれない。

ここに示した答案は、20歳前後の受験生が書いた答案としては、どれもうまくまとめられている。自治医科大の求める人物像とも符合しそうだ。

特に答案1は、金額としては(治療費1000円から時計代250円を差し引いた)750円分の損失であるにもかかわらず、「今日は今まででいちばんよい買い物をした」と冒頭で述べており、本来は負担であろうはずの母子に冒頭で感謝を述べている心根に惹かれる。また、患者との一期一会を大切にしている姿勢が感じられ、病から解放され成長していく少年の未来が、戦争のない平和な世界であることに思いを馳せている姿にも共感しうる。

衝突する2つの義務にどう向き合う

さしずめ、筆者が考える医師に必要な能力、資質の類型によれば、①患者の要望に耳を傾けて正しく応える力、②公共性・公共心、③患者の負の状況に前向きに向き合う心、④患者の置かれている状況を理解し自らに置き換えて考える心、などが備わっていると思わせる内容である。

ただし、3通の答案に共通して言えることは、自らの行為を内省する側面をもう少し打ち出してもよいのでは、という点だ。

答案1では、医師の立場に少し触れられているが、もう少し踏み込んでもよい。出題者がどこまでを問おうとしているのかは明確でないが、「今日、私がした行為が正しかったのかどうか、それはわからない」という反問があってもよかったのではないか。この医師は来院した正広ちゃんに対し、正式な治療費を受け取らずに治療している。医療は本来、誰に対しても公正・公平で平等であるべきなのに、その道からそれてしまっているのは事実だ。また、翌日同様な状況の小児が訪れた場合、さらにその翌日も同様な患者が来院した場合、この医師はどう対処するというのだろうか。この問いには答えが用意されていないように思う。つまり「普遍的に可能な行為」としては、医師の行為にはほころびが見られるのだ。

しかしながら、医師の行為をその瞬間で切り取るならば、是としたい。そもそも大きな枠組みで見ると、本問には、

①私は医師として人々の生命の保護と健康の増進に努めなければならない。

②私は誰に対しても、公平・公正な医療を提供しなければならない。

という2つの義務が衝突しているのである。

そもそもこの問題は、「あちらを立てれば、こちらが立たず」という構造なのだ(=義務の衝突)。難化する医学部入試の2次試験では、いわば”答えのない”問いに対し、どう向き合い奮闘しているか、その過程で自身の”素の心”がどう表れているかが見られている。まさに出題者はそれを精査しようとしている。

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