家族の問題は、その家族だけが導き出せるベストな答えがある。他者にはわからない、それぞれの事情や気持ちがあるからだ。ただ、美紀子さんは第三者に入ってもらうことの利点について、こうも語ってくれた。
「私たち夫婦はお互いカウンセラーですし、『何か問題があればその都度話し合う』ということに関しては、かなり話せる土壌があると思います。でも、やはり、当人たち同士だけで一面的に物事を見て話していると、場当たり的になったり、言い合いになることもある。間に人に入って聞いてもらうことで冷静になって、根本的な家族の方針や、いちばん困っていることがわかると気がつきました」
話しても大丈夫、と思える場所をつくる
今回、まだ幼い陸くんが、素直に気持ちを話してくれることに驚いた人もいるかもしれない。実は、今回取材をする半年前にも、一度私は安東家を訪れていた。当時、まだ2歳半だった陸くんが、どんなふうに家族の話し合いに参加できるか、お試しの会議を開いたのだ。その時は、ただ陸くんとあれこれ話をしただけだったが、驚くほど自分のことを話してくれた。
「ハハが怒るといちばんかなしいからね。いやなの」
「チチがおしごとに行ってほしくないの。いっしょにいきたいよ」
「ほんとうは、おともだちに、おもちゃをかしたくないよ。だってりくくんのだもの」
この時のことを振り返って美紀子さんはすごく驚いた、という。
「陸の気持ちは聞くようにしていたけれど、どこかで親の希望を酌んで、ダメなことは言わないようにしていたんだなって思ったんです。でもあのとき、いろいろ聞いてもらって、『ちゃんと思うことを言ってもいいんだ』と思ったみたいで。以来、感情を言葉で少しずつ出せるようになりました。今では『おともだちをキックしたかった』なんてドキッとするようなことでも話してくれます(笑)」
第三者が話し合いに入ることで、「この場ではもしかしたら、なんでも言っていいのかもしれない」と思えた。このことが陸くんの感情を大きく変えたように思う、と美紀子さんは言う。
家族会議は家族でやるからこそおもしろい。家族だからこそ、自然に本音が話せたらいちばんいい。でも同時に、家族で話すのは難しい、とも思う。どうしても近いもの同士、感情がぶつかるし、とことん冷静になるのは難しいからだ。
でもそんなとき、誰かがクッションになって意見や気持ちをただ聞き出していけば、意外なほどに穏やかに、みんなが自分の本当の気持ちを話し出すことがある。大人も、子どもも。今、ここなら気持ちを話しても大丈夫、という場所をつくるのに、何歳からでも早すぎることはない、と安東家を見ていて改めて学ばせてもらった。
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