イカ好きを魅了する通の食べ方は「全刺し」だ 福岡・中洲、生き造り発祥の店で14部位に命名

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鮮度が命のイカの生き造りを楽しめるのは当然、産地に近い場所に限られる。「全国いか加工業協同組合」(東京)の野々山浩専務理事は「東京では、生き造りはかなり限られた店でしか提供されない」。2月にチェーンの九州料理店で生き造りを注文したところ「1杯5000円した」。

イカは養殖に不向きで、供給は漁に頼らざるを得ないのが現状という。さらにその漁獲高は近年、減少が続いている。加工向きのスルメイカだけではなく、生き造りになるヤリイカも例外ではない。

「全刺し」の魅力とは

河太郎の店内のいけすで元気に泳ぐヤリイカ(写真:西日本新聞経済電子版)

そんなヤリイカを、料理店では大切に取り扱っている。河太郎の齋藤靖之総支配人は「仕入れが命。気候にも気象にも左右され、これまで取れていたところで取れなくなることも少なくない。自然環境の影響を受けやすい」と話す。

さらに「新鮮さが命なので、物流は本当に重要。そしてデリケートなヤリイカが過ごせる自然環境を店内のいけすに再現するのも簡単ではない」と続けた。

そんな歴史と背景を持つイカの生き造り。透き通った身は、塩だけ▽塩にレモンを合わせて▽わさび醤油――といった食べ方で、その甘みやこくが多彩になり、その歯ごたえとともにやみつきになる。

そしてもう一つの楽しみが、食べ終わった後の「後造り」だ。福岡では後造りというと、天ぷらか塩焼きがスタンダード。しかし古賀社長によると、しかしイカ通はその両方も選ばない。あらかじめ「全刺し(ぜんさし)」をオーダーするのだ。耳慣れない言葉だが、全刺しとは読んで字のごとく「全て刺身」にすることだ。

生き造りを盛りつける代永秀太料理長。透き
通った身が美しい(写真:西日本新聞経済電子版)

河太郎の代永秀太総料理長が「全刺し」を盛りつけた。三角形の「えんぺら」と胴だけではなく、げそ、目の周りの部分……それぞれに食感、甘み、コクが異なり、味わいの豊かさを再認識した。

話が横道にそれるが、「ぜんさし」――。記者にとっては、実はちょっとつらい言葉だ。

「この原稿は『ぜんさし』せんとやな」。デスクがこう通告してきたとき、記者はかなりの苦難を覚悟せねばならない。「全さし」とは編集用語(?)でいうところの「全差し替え」。つまり「いちから書き直し」である。

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