《MRI環境講座》洞爺湖サミット連動特別編(1) 福田ビジョンと中長期目標

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■中期目標の提示が喫緊の課題

 現在、サミットに際し、先進国が温室効果ガス削減の中期目標を示せるかが注目されている。

 なぜ中期目標が重要なのか。以下はIPCCが昨年発表した第4次評価報告書で示されたシナリオ別のCO2排出ピーク時期と2050年の削減量、気温上昇レベルである。例えば、産業革命前からの気温上昇を2~3度程度に抑えるとした場合、およそ2020年までに排出量を頭打ち(ピークアウト)させることが必要であることが分かる。まさに2020年に向けた今後10年こそが地球温暖化対策にとって決定的に重要な時期であり、その期間にいかに低炭素社会に向けた道筋を付けられるかが鍵となるといえる。

 EUは2020年までに1990年比20%削減を目標とし、中期目標に関して国際的な気候変動協定が合意された場合には海外クレジットの活用も考慮し、1990年比30%削減を目標とするとしている。また、EUは中期目標以外にも、再生可能エネルギー利用促進についても現状の倍以上であるエネルギー消費量比率20%を目標とするなど野心的な政策を掲げており、本格的に低炭素社会に向けて舵を切ったといえるだろう。

 一方、日本は中期目標を現時点では示していない。福田ビジョンの中で、経済産業省が示した「長期エネルギー需給見通し」の試算を参照し、2020年までに2005年比14%削減を目安として示した。この目標は現在想定される技術を最大限導入した場合に期待される削減効果をボトムアップ式に示したもので、気温上昇を2度以内に抑制させるために必要な削減というトップダウン式に新たな社会像を示したEUと対照的である。

 「2050年に半減」という方向性を示し、世界で共有することは大切である。しかし、2050年には今回サミットに参加したリーダー達のほとんどはいないだろうし、現在トップと呼ばれている企業でさえどれだけが生き残っているかも分からない。そのような未知の社会における目標では現在の行動に結びつけることは難しい。2020年という現在の行動の延長線上にある時期を目標として設定してこそ現在の行動を真剣に見直すことに繋がるのではないだろうか。日本でも有数の豊かな自然や環境に恵まれた洞爺湖で、世界の首脳達が自ら責任を持てる中期目標に対して明確な意志を示せるかどうかが試されている。

*1 一人当たりに与えられた排出する権利は平等として、将来的に一人当たり排出量に収束させるとするアプローチは、“common but differentiated convergence’”として提案されている。

《プロフィール》
株式会社三菱総合研究所
環境フロンティア事業推進グループ/環境・エネルギー研究本部
環境・エネルギー研究本部は、環境・エネルギーに係わる様々な専門分野を持つ約100名の研究員により構成。その前身の地球環境研究本部は、リオ・サミットの前年である1991年の創設以来、国などにおける環境関連政策、制度設計の支援、関与など中心とし幅広い実績を持つ。
また、企業における環境問題への取組の浸透、拡大等が進む中、先進的な環境関連の事業、ビジネスを支援する機能として、環境フロンティア事業推進グループが2007年10月に設立。電話番号は、03-3277-0848

真野秀太 研究員
環境・エネルギー研究本部地球温暖化対策研究グループ
排出量取引制度や算定・報告・公表制度等の国の制度設計の業務や、京都メカニズムに基づくプロジェクト発掘・形成に携わる一方、企業への温暖化戦略のコンサルティング業務を行う。
◆この記事は、「GLOBIS.JP」に2008年7月9日に掲載された記事を、東洋経済オンラインの読者向けに再構成したものです。
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