GAFAの躍進を支えるリバタリアン思想の正体 自由至上主義者のユートピアが現出した

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たとえばアマゾンは、e託サービスによって、マスマーケットへのアクセスなど望むべくもなかった個人が、ニッチな小ロットの商品を販売することを可能にした。フェイスブックなどのSNSは、大組織の支援のない名もなきクリエイターが本当に面白いコンテンツをコンテンツそのものの力で拡散させることを可能にしている。300万円の予算で制作された映画『カメラを止めるな!』がヒットしたのは、SNSを通じた口コミの力も大きい。

20億人のSNSのプラットフォームは、ほかの同様のプラットフォームの追随を許さない悪徳のモノポリかもしれないが、それによって地球上のあらゆる弱小クリエイターたちは、ごく少ない資本で、本当に刺激的で面白いコンテンツを世界に発信し、評価されることが可能になったのである。 ユーザーとしても、自分の嗜好がどんどんコンテンツに反映されていくのだとすれば、しなければならないのは、好きなものを探し、楽しみ、周囲の一握りの人たちに共有することだけだ。

(写真:REUTERS/Thomas Peter)

だが彼らユーザーはいまGAFAの信者であったとしても狂信者ではない。タイムラインのニュースが胡散臭いと思えばいつでも、別のメディアをみることができるし、アマゾンがダメなら楽天がある。そうしないとすれば、それはGAFAのサービスは便利さとともに、より多くの真実をもたらしてくれるからだ。アマゾンはおおむね、私たちを売る側の論理と都合やマスマーケティングの押し売りから解放してくれている。四強が競合を破壊し尽くして、戻る場所はなくなるという考え方もあろうが、私はそうは思わない。

栄光は永遠ではない

私たちがグーグルやフェイスブックを認知し始めてから、まだ20年も経っていない。20年前、本書にも登場する当時時価総額上位のGEは、次の100年も安泰と思われていたが、つい先日ひっそりと、ダウ平均銘柄のリストから姿を消した。iPhoneXで多くの通信や雑務をこなしてしまう私たちがブラックベリーに張り付いていたのは10年も昔ではない。栄光はかくも儚いものだとGAFA以前の世界を眺めてきた私たちユーザーは知っている。四騎士の覇権もいつかは崩れ、新しい騎士たちが世界を席巻するだろう。 

Google 、Apple、Facebook、Amazon――彼ら四騎士は確かに地球の四分の一以上を支配しつつあるが、彼らの栄光は永遠ではない。ただ、この本を読み終わってもなお、四騎士の台頭を厄災ではなく福音と想い続けることができるならば、あなたはもしかすると、天才起業家が神々となるユートピアを信じるリバタリアンの一人かもしれない。

脇坂 あゆみ 翻訳家

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わきざか あゆみ / Ayumi Wakizaka

訳書にアイン・ランドの『肩をすくめるアトラス』(アトランティス社)、『われら生きるもの』(ビジネス社)。イタリア映画「Noi Vivi」の字幕翻訳も。ランドの作品を翻訳するかたわら、アメリカのリバタリアン思想や政治文化の動向をウォッチし続けている。ジョージタウン大学外交大学院修士課程修了。米国公認会計士。

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